LCDとは?――液晶が光を制御する原理を偏光・TFT駆動・製造工程から解説

液晶はなぜ光らないのに映像を作れるのか。偏光と複屈折、TN・IPS・VAの違い、TFTの画素保持、交流駆動、光の損失、セル製造と表示ムラまで順を追って解説する。

公開 2026/8/28 確認 2026/10/22 読了 19分 入門 執筆: 知識図書館 編集部

この記事の結論

  • LCDは光源・液晶シャッター・画素駆動回路の3つを組み合わせて映像を作る。液晶そのものは発光しない
  • 液晶の配向を電界で変えると偏光の状態が変わり、偏光板を通過する光量が変化する。TN・VA・IPSではその方法が異なる
  • TFTは画素の電圧を書き込み、液晶容量と保持容量が次の更新まで状態を保つ。光学設計だけでなく製造精度も画質を決める

まず結論:LCDは「光を作る」「光を絞る」「画素を制御する」装置

液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)は、液晶が自ら発光する装置ではありません。代表的な透過型LCDでは、背面のバックライトが作った光を、液晶と偏光板が画素ごとに調節し、その光を人が見ています。

イメージとしては、次の3つの仕組みが重なった装置です。

  1. 光源:バックライトが、画面全体へできるだけ均一な光を供給する。
  2. 光学シャッター:液晶分子の向きと偏光板の組み合わせで、赤・緑・青それぞれの光を通す量を変える。
  3. 電気回路:TFT(薄膜トランジスタ)が、数百万個以上あるサブピクセルへ必要な電圧を順番に書き込む。

つまり、液晶が「光を遮る壁」に変形するわけでも、電圧の強さに比例して発光するわけでもありません。分子の向きを変え、光の偏光状態を変化させることが核心です。

バックライトからの光が下側偏光板、TFT基板、液晶層、カラーフィルター、上側偏光板を通って表示されるLCD積層構造
図1 代表的な透過型LCDの構造。光はバックライトから偏光板、液晶セル、カラーフィルターなどを通って観察者へ届く。各層の細かな配置は方式により異なる。

ここから「光が進む順番」→「液晶が光を変える物理」→「画素を動かす電子回路」→「実際の製造と画質の限界」の順に見ていきます。

1. 画面を断面から見る:各部材には別々の仕事がある

代表的な透過型TFT-LCDを、背面から前面へたどると次のようになります。部材の配置は製品設計によって変わり、特にIPS/FFS方式では共通電極もTFT側基板に形成する構造があります。

主な部材役割ここが不完全だと起きること
バックライト(LED光源・導光板または直下型構造)面状の照明を作る画面の明るさの偏り、輝度不足
拡散板・プリズムシートなどの光学フィルム光を広げたり、正面方向へ集めたりする視野角や輝度の変化、明暗ムラ
背面側偏光板さまざまな振動方向の光から特定の偏光成分を取り出す偏光の乱れ、コントラスト低下
TFTアレイ基板・画素電極各サブピクセルの液晶へ電圧を与える点欠陥、線欠陥、階調異常
配向膜・液晶層・スペーサー液晶の初期方向とセル厚を規定し、電圧に応じて光の状態を変える色ずれ、応答差、表示ムラ
カラーフィルター(CF)・ブラックマトリクス(BM)赤・緑・青の波長を選び、画素間などの不要光を隠す色純度低下、光漏れ、混色
前面側偏光板・補償フィルム液晶から出た偏光を明暗に変換し、斜め方向の特性を補正する黒浮き、斜めから見た色変化

重要なのは、光の均一性・液晶の透過率・TFTの電気特性が、最終的な見た目に掛け合わさることです。液晶材料が優秀でも、バックライトが不均一であれば均一な白画面にはなりません。

なお、電卓などには周囲の光を反射して使う反射型LCDもあり、すべてのLCDにバックライトが必要なわけではありません。以下は、テレビ・PCモニターなどで広く使われる透過型を中心に説明します。

2. そもそも液晶とは何か:液体なのに方向がそろう

一般的なLCDが使うネマティック液晶は、流動性を持ちながら、棒状に近い分子の長軸が平均として一定方向を向きやすい材料です。この平均方向を**ダイレクター(director)**と呼びます。

普通の液体では分子の向きがばらばらなので、見る方向によって光の性質が大きく変わることは通常ありません。これに対し液晶では、分子の長軸方向と、それに直交する方向とで屈折率が違います。これを**複屈折(光学異方性)**といいます。

さらに液晶分子は電気的にも異方性を持ちます。電界を与えると、材料の誘電率異方性 Δε に応じて、分子が電界に沿う方向、または電界に直交する方向へ回転しようとします。実際には、表面の配向膜が分子を元の方向に保とうとする力や、分子同士の弾性も働くため、電圧に応じて連続的に配列が変わります。

ここがLCDの巧妙な点です。電気は光を直接生み出すのではなく、光が通過する材料の方向を変えるために使われるのです。液晶配向と電界の関係については学術レビューにも整理されています。

偏光板を2枚重ねると、なぜ真っ暗になるのか

光は電磁波で、進行方向と直交する方向に電界が振動しています。通常のバックライトの光には、さまざまな振動方向が混じっています。

  • 1枚目の偏光板は、一定方向に振動する成分だけを通します。理想的な偏光板を自然光が通る場合、ここで光の強さは約半分になります。
  • 2枚目の偏光板を1枚目と直角にすると、1枚目を通った偏光は原理的に通れません。これを**直交偏光板(クロスニコル)**といいます。
  • その2枚の間へ液晶を入れて偏光状態を変えると、2枚目を通れる成分が生まれ、明るく見えるようになります。

厳密には、液晶は光を機械的にねじ曲げて進路を変えるのではありません。材料の光学異方性によって、直交する偏光成分の進み方・位相が変わり、結果として出口側の偏光板を通過できる割合が変わります。

一歩深く:セル厚が「色」にも影響する理由

簡略化した、一様に配向した複屈折層へ垂直に入射する光の**位相差(リタデーション)**は、次の式で表せます。

位相差 δ = 2π × Δn × d / λ

  • Δn:屈折率の異方性
  • d:液晶層の厚み(セルギャップ)
  • λ:光の波長

同じ液晶材料でも、セルギャップ d が変われば偏光の変化量が変わります。さらに光の波長 λ によっても変わるため、液晶の厚さのばらつきは、明るさの差だけでなく色味の差にもつながり得るのです。

例えば、Δn = 0.10、d = 4.0µmと仮定すると、Δn × d は400nmです。ギャップが0.1µm変化すると、この光学的な厚さは10nm、すなわち2.5%変化します。透過率の変化は表示方式や波長ごとに異なりますが、肉眼で見えるムラが「ガラス間のごく小さな寸法差」から生じ得ることが分かります。

これは一様配向層の説明式であり、実際のTNのように厚さ方向で分子がねじれた構造や、IPSの不均一な電界をこの1式だけで計算できるわけではありません。それでも「なぜ数µm程度のセル厚を厳密に管理するのか」を理解する入口になります。光学設計の詳細は液晶ディスプレイ専門レビューを参照。

3. まずTN方式で理解する:電圧をかけると暗くなる場合がある

初心者が最も混乱しやすいのは、「電圧をかけたら光る」という発想です。代表的なTN(Twisted Nematic)方式のノーマリーホワイト構成では、むしろ逆の動作をします。

電圧をかけない状態

  1. 上下の配向膜は、それぞれ異なる方向に分子を並ばせる。
  2. 液晶分子は厚さ方向に約90°ねじれた配列になる。
  3. 適切な光学条件では、入射した直線偏光がこのねじれに沿うように偏光方向を変える。
  4. 入口と直交する出口側の偏光板を通過できるため、画素は明るく見える。

十分な電圧をかけた状態

  1. 電界により、液晶分子の多くが基板面に対して立ち上がる。
  2. 光に対するねじれの効果が弱まり、入口側で作られた偏光の向きが十分には変わらない。
  3. 出口側の偏光板で遮られ、画素が暗く見える。

これが「液晶がシャッターになる」の正確な意味です。ただし、TNにも偏光板の組み方を変えたノーマリーブラック構成があり、すべてのLCDで電圧ON=黒とは限りません。シャープのTN方式の原理解説にも、無電圧で白、印加時に黒となる例が示されています。

また、黒から白までの途中の明るさは、液晶の平均的な配向角と、それによる光の透過率を連続的に調節して作ります。単純なON/OFFの2段階しかないわけではありません。

4. 1画素の色はどう生まれるのか:RGBは3つの別のシャッター

カラーLCDの基本単位は、赤(R)・緑(G)・青(B)のサブピクセルです。通常、この3つをまとめて1画素(ピクセル)と呼びます。

例えば赤色を表示するなら、赤のサブピクセルの透過率を高くし、緑と青を低くします。白なら3色の光を適切な比率で通します。黒なら3色ともできるだけ遮ります。

ここには二つの重要な制限があります。

第一に、カラーフィルターは光を「作り分ける」のではなく不要な波長を吸収することです。白色バックライトのエネルギーのかなりの部分が、各色のフィルターで使われずに失われます。

第二に、各サブピクセルの液晶はあくまで透過率を変えていることです。画面の色域はカラーフィルターの分光特性だけでなく、LED光源のスペクトルや量子ドットなどの光学技術にも影響されます。「10億色表示」という表現だけで、色域や色の正確さが決まるわけではありません。

4K(3840×2160)のRGBストライプ配列であれば、約830万画素に対してRGBサブピクセルは約2490万個です。これらを人が動画として認識できる時間内に制御しなければなりません。

5. TFTは何をしているのか:液晶を動かすより「電圧を記憶させる」

多数のサブピクセルを独立制御するため、一般的な高精細LCDはアクティブマトリクス駆動を使います。その主要部品がTFT(Thin-Film Transistor)です。

TFTを液晶に電流を流し続けるための装置と考えると、仕組みを誤解します。実際には画素電極へ目的の電圧を書き込み、次の更新まで保持するためのスイッチとして働きます。

典型的な画素回路を簡略化すると、次の要素で構成されます。

電気回路の要素働き
Gate線(走査線)ある1行のTFTをまとめてONにする
Data線/Sourceドライバーその行の各サブピクセルへ階調に対応する電圧を供給する
TFTGateがONの短い時間だけData線と画素電極を接続する
液晶容量 Clc画素電極と共通電極などの間で電荷を蓄える。液晶へかかる電圧を形成する
保持容量 CstTFTがOFFになった後も画素電圧を安定に保持するのを助ける
共通電極 Vcom画素電圧の基準になる電極。配置はTN/VAとIPS/FFSなどで異なる

60Hzの1フレームの間に起きていること

  1. 1行目のGate線をONにする。
  2. Sourceドライバーが、その行のR・G・Bに対応する電圧をData線へ出力する。
  3. TFTを通して各画素の容量が充電される。
  4. GateをOFFにすると、画素はその電圧を次の更新までほぼ保持する。
  5. 次の行へ移り、この操作を画面の下まで繰り返す。

60Hzなら1フレームは約16.7msです。2160行を単純に均等配分すると、1行あたり約7.7µsしかありません(実際にはブランキングなどの時間があるため、さらに短くなり得ます)。この短時間で必要な画素電圧まで充電するには、TFTのON電流、Data線の抵抗・容量、ドライバーの駆動能力が重要です。

一方、GateがOFFの間にTFTの漏れ電流が大きいと、保持電圧がずれて階調やフリッカーへ影響します。保持容量を増やすと電圧保持には有利ですが、その配置は画素内の有効開口面積や配線設計との兼ね合いになります。

表示の「書き込み」はマイクロ秒単位、液晶分子の「光学応答」はミリ秒単位という、時間スケールの違いがあることも重要です。TFTが高速で書き込めても、液晶が目的の透過率へ到達するのは必ずしも同時ではありません。アナログ・デバイセズのTFT-LCD駆動回路解説には、画素容量と保持容量、ドライバー電圧の関係が示されています。

なぜ「電圧=明るさ」ではないのか

液晶の印加電圧と透過率の関係(V–T特性)は非線形です。方式によっては電圧が低い側で白く、高い側で黒くなることもあります。

ドライバーは、映像信号の階調を液晶の透過率や人間の明るさの感じ方に合わせ、適切な電圧へ変換します。これがガンマ設定や階調電圧(ガンマ電圧)設計と関わります。デジタル信号の数値を、そのまま比例した電圧へ変換するだけでは自然な階調になりません。

6. なぜ毎回プラス・マイナスを反転して駆動するのか

LCDの画素へ同じ極性の直流電圧を長時間印加し続けると、液晶内の微量なイオン性不純物や配向膜との界面の影響で電荷の偏りが生じ、残留DC電圧や**一時的な残像(image sticking)**などの原因になります。

そのため通常のLCDでは、画素と共通電極の電位差の極性を周期的に反転させます。たとえば、ある階調を表示するのに必要な電圧の大きさが V なら、あるタイミングでは +V、別のタイミングでは −V になるよう駆動します。通常のネマティックLCDで分子に働く主な誘電トルクは電界の強さの2乗に関係するため、極性を反転しても概ね同じ光学状態を保てます。

反転のしかたにはフレーム反転・ライン反転・カラム反転・ドット反転などがあり、フリッカー、クロストーク、消費電力などの設計トレードオフが存在します。

これはOLEDで問題になる発光素子の長期劣化による焼き付きとは原因が異なる現象です。LCDでも残像は起こり得ますが、すべてが永久劣化というわけではありません。実際の残留DC発生とイオン・配向膜の関係は液晶の残像に関する研究で検討されています。

7. TN・VA・IPS・FFSは「液晶の回し方」が違う

LCDの表示方式の違いは、単なるブランド名ではありません。初期状態での分子の向き、電界の方向、電極形状が異なるため、黒の作りやすさ、視野角、応答特性、電圧、光の利用効率が変わります。

方式分子と電界の基本的な動作画質面の特徴設計上の難しさ
TN厚さ方向にねじれた液晶を、主に縦方向の電界で立ち上がらせる方式として構造を理解しやすく、応答性を高めた設計が多い斜めから見ると色・階調が変化しやすい
VA(Vertical Alignment)無電圧でほぼ垂直配向。主に負の誘電率異方性を持つ液晶を電界で傾ける正面からの黒を深くしやすく、高いネイティブコントラストを狙える視野角依存・中間階調の応答・傾斜方向の制御
IPS(In-Plane Switching)主として基板に沿う横電界で液晶を面内回転させる視野角による階調変化を抑えやすい電極の占有面積や透過率、電界均一性との両立
FFS(Fringe-Field Switching)絶縁膜を隔てた電極などでフリンジ電界を発生させるIPS系の広視野角と光利用効率の両立を狙う電極幅・ピッチ・絶縁膜などの精密設計

TNの代表例は無電圧で白ですが、VAの代表的なノーマリーブラック構成では無電圧で黒です。液晶が垂直に配向していれば、正面からの入射光には複屈折の効果が小さく、直交偏光板で遮りやすいためです。電界で液晶が傾くと光の偏光状態が変わり、明るくなります。

IPS/FFSでは横方向・斜め方向の電界を作るため、共通電極を含めてTFTアレイ側に電極を配置する設計が一般的です。「共通電極は必ずカラーフィルター基板側にある」という説明は、すべてのLCDに当てはまりません。

また「TNは必ず速い」「IPSは必ず色が正しい」といった言い切りも不正確です。液晶材料、セル厚、オーバードライブ、補償フィルム、バックライトや色補正の設計により、製品単位の性能は大きく変わります。各方式の原理は学術レビューの図解で確認できます。

8. 画面が明るく見える裏で、光の多くは失われている

LCDでは、バックライトを明るくすれば、その光がすべて前面へ届くわけではありません。

例えば光源から出た光は、偏光板で一部が失われ、カラーフィルターで不要な波長が吸収され、TFT配線やブラックマトリクスのある領域を通れず、光学フィルムや電極でも損失が発生します。

概念的には、正面に出る光の割合は次のように表せます。

全体の光利用効率 ≈ 偏光板の透過効率 × CFの透過効率 × 画素の開口率 × その他の透過効率

これは厳密な測光計算ではなく、主な損失要因を整理するためのモデルです。波長・角度・偏光への依存や、光を再利用する光学シートの効果は別に考える必要があります。公開されたLCD専門研究では、従来型の構成で光学効率が数%程度にとどまる例が示されています。LCDとOLEDの技術レビュー

だからLCD開発では、ただ液晶材料の透過率を高めるだけでは不十分です。高開口率の画素配線、偏光の再利用、CFの透過率、バックライトの光学設計を一体で最適化します。

明るさ・色域・消費電力は同時に最大化できない

例えば、カラーフィルターの透過帯域を狭くすれば色の純度を高めやすくなりますが、通過できる光も減ります。結果として、同じ画面輝度を得るためにバックライト出力を上げなければならない場合があります。

つまり「鮮やかで明るく、しかも低消費電力」の実現には、液晶単独ではなく、光源スペクトル・色選択・光学損失の全体設計が必要なのです。

9. 応答速度は何で決まるのか:Hzだけでは残像の多さが分からない

リフレッシュレートは新しい画像を書き込む頻度、応答速度は液晶がある透過率から別の透過率へ移る時間です。両者は別の性能です。

液晶の応答には、分子を回そうとする電界の力、分子を元へ戻そうとする弾性、動きを妨げる回転粘性が関係します。単純化した弾性緩和モデルでは、電界を切った後の特性時間はおおむね次の関係を持ちます。

緩和時間 τoff ∝ γ₁ × d² / K

ここで γ₁ は回転粘性係数、d はセルギャップ、K は代表的な弾性定数です。同じ材料・配向条件を仮定すれば、セル厚が2倍になると緩和時間が約4倍になるという関係です。ただしこれは理想化した近似で、実際の応答は電界分布、粘性流動(バックフロー)、温度、方式などに左右されます。液晶物理の専門解説

セル厚を薄くすれば応答には有利でも、光学位相差 Δn・d まで変わり、要求される透過率や色特性、量産時のギャップ管理が難しくなります。速くするだけなら薄くすればよい、という問題ではないのです。

また、液晶は中間階調から中間階調への遷移が遅くなる場合があります。その対策として、目的の階調電圧より一時的に強い電圧を与えるオーバードライブが使われます。ただし過剰に設定すると、輪郭の逆残像やオーバーシュートが見えることがあります。

10. なぜ製造が難しいのか:数µmの液晶層を巨大な面積で均一にする

ここまでの光学・電気の説明を製造工程に置き換えると、LCDが単なる「2枚のガラスで液晶を挟んだもの」ではないことが分かります。

(1) TFTアレイ工程:ガラス上に多数の電子スイッチを作る

大型のマザーガラス上へ、金属配線・半導体層・絶縁膜・透明電極などを積層します。薄膜形成、フォトリソグラフィー、エッチングなどを繰り返し、Gate線、Data線、TFT、保持容量、画素電極を形成します。

この工程で重要なのは、配線がつながっていればよいのではなく、電気的な特性も面内でそろっていることです。例えば、TFTのチャネル寸法や膜特性のばらつきはON電流・漏れ電流に影響し、書き込み不足や保持不良の原因になり得ます。導電膜のエッチング残りは短絡、過剰な加工は断線や抵抗上昇につながり得ます。

(2) カラーフィルター工程:RGBと遮光パターンを重ねる

別のガラス基板などへ、ブラックマトリクス、R・G・Bの着色パターン、保護膜などを形成します。一般的な構成では、各色の樹脂パターンを塗布・露光・現像して重ねていきます。

各色の位置や寸法がずれると、開口率や色の混ざり方が変わります。黒いブラックマトリクスは、画素の境界を隠すだけでなく、不要な透過光やTFT領域への入射光を抑える役割も担います。なお、カラーフィルターをTFTアレイ側に設けるCOA(Color Filter on Array)などの派生構造もあります。

(3) セル工程:配向膜・液晶・ギャップを制御する

  1. 基板を洗浄し、液晶の初期方向を決める配向膜(一般にポリイミド系など)を形成する。
  2. ラビングなどで所定の配向を与える。方式によっては光配向なども使う。
  3. スペーサーで狙いのセルギャップを確保し、周囲にシール材を設ける。
  4. 液晶を滴下して真空中で精密に貼り合わせるODF(One Drop Filling)方式などで液晶セルを作る。
  5. シールを硬化させ、切断・検査・偏光板貼付などを行う。

大きなガラスでは、基板のたわみ、貼り合わせ圧、スペーサー分布、液晶の充填状態などがギャップ均一性に影響します。しかも、前述したようにギャップ d は光学位相差にも応答速度にも効きます。単なる機械的な寸法誤差が、そのまま見た目の品質へ現れるのです。

工程の全体像は日本半導体製造装置協会(SEAJ)の製造工程解説、配向膜・ODF・貼り合わせはサムスンディスプレイの工程解説で確認できます。

(4) モジュール工程:画素が正常でも、完成画面はまだ完成しない

完成した液晶セルに、ドライバーIC、フレキシブル基板、偏光板、バックライト、筐体などを組み込みます。組立時の応力、光学フィルムの位置、バックライトのLED配置・拡散条件も、最終画質へ影響します。

つまり、液晶セルだけを検査して良好でも、モジュール完成後に新たな明るさムラや光漏れが生じる可能性があります。

11. 画面の不具合から製造・設計の原因を逆にたどる

LCDでは、表示異常の「見え方」と「真の原因」が必ずしも1対1になりません。例えば白画面に雲のようなムラが見えても、液晶層の厚みだけが原因とは限りません。

見え方・症状想定される原因の例どの機構と結び付くか
点が常に明るい/暗いTFT・電極の不良、異物、配向異常など個々のサブピクセルの書き込みや透過率
縦線・横線が出るGate/Data配線、ドライバー、接続部の異常など1行・1列をまとめて制御するマトリクス構造
白や中間階調に雲状のムラ(Mura)セルギャップ、配向、CF、バックライト均一性、応力など光学特性・電気特性の面内ばらつき
斜めから黒が白っぽく見える光学補償や液晶方式の角度依存斜め光での位相差・偏光状態の変化
動画で尾を引く階調間の液晶応答、温度、オーバードライブ設定など電圧更新速度と分子の移動時間の違い
同じ図柄の輪郭がしばらく残る残留DC、イオン、配向膜、駆動条件など交流駆動と電荷の偏り

製造現場では、欠陥の位置・形・発生した工程を重ねて考えます。例えば規則的な1列の異常なら配線・ドライバーを疑う根拠になりますが、不規則な広域ムラならギャップやバックライト、配向なども候補に入ります。ただしこの表だけで故障箇所を断定することはできません。Muraの分類と検出を整理した研究レビューも参考になります。

12. Mini LEDでLCDの弱点はどこまで改善できるか

通常のLCDでは、液晶のサブピクセルが暗い場面でも、背面の光源はある程度明るく光っています。このため液晶と偏光板で完全に遮れないわずかな光が「黒浮き」として見えます。

Mini LEDバックライトを用いたLCDでは、画面の位置に応じて背面のLEDを複数の領域(調光ゾーン)に分け、明るさを制御します。暗い領域の光源そのものを弱めることで、液晶側の遮光能力だけでは難しかった高い見かけ上のコントラストを狙います。

ただし、バックライトのゾーン数とLCDのサブピクセル数は一致しません。例えば仮に4K画面を1000ゾーンで制御すると、単純平均で1ゾーンは約8300画素を受け持つ計算です。実際の区画形状・制御方式は異なりますが、星空の小さな星の周囲のように明暗が隣接する場面では、暗くしたい画素の背面でもバックライトを明るくせざるを得ないことがあります。これがハロー(ブルーミング)の一因です。

Mini LEDはLCDのバックライト技術であって、液晶を不要にする技術ではありません。一方のOLEDは、各画素の発光を直接制御する自発光方式です。両者の比較では、同じ「コントラスト」という言葉でも、液晶パネル単体のネイティブコントラストと、局所調光込みの実効的な見え方を分けて考える必要があります。

13. LCDはなぜ今も使われるのか

OLEDなど自発光ディスプレイが普及しても、LCDには成熟した大型ガラス基板プロセス、広い製品用途、高輝度化の選択肢、焼き付きに関する性質の違いなど、実用上の利点があります。

同時に、バックライトを必要とする透過型構造、多数の光学部材、液晶の応答時間、観察方向による光学特性の変化という制約もあります。どちらが優れるかは、価格だけでなく画面サイズ、消費電力、屋外輝度、静止画の表示時間、動画応答、黒表現などの要求によって変わります。

LCDの本質は、半導体で作った画素回路と、電界で動く分子と、偏光を利用した光学系を一枚の大きな面積の中で協調させる技術です。だからこそ、LCDを深く理解するには材料物理だけでなく、TFT回路、光学、薄膜・エッチング、精密貼り合わせまでを一続きで捉える必要があります。

よくある誤解を整理

誤解実際には
液晶が光っている多くのカラーLCDではバックライトが発光し、液晶は透過率を調整する
電圧をかけるほど必ず明るくなるノーマリーホワイトTNのように、電圧で暗くなる設計もある
TFTが常に電流を流して液晶を光らせるTFTは主に画素電圧を書き込むスイッチで、液晶容量・保持容量が電圧を保つ
120Hzなら応答速度も必ず速い書き込み頻度と分子の応答時間は別の特性
IPSはすべて高画質、VAはすべて低画質各方式の長所はあるが、実際の画質は光学・回路・駆動・製造設計まで含めて決まる
Mini LEDは液晶ではないMini LEDは主としてバックライトの技術で、液晶パネルと併用する

参考資料・さらに深く読むために

下記は製造装置団体・ディスプレイメーカー・電子部品メーカーの技術資料、および研究論文・専門レビューです。本文中の近似式や方式の説明は、製品ごとに成立条件が異なることに注意してください。

  1. Uchida, T. ほか, Development of liquid crystal displays and related improvements to their performances, Proceedings of the Japan Academy, Series B, 2022. TN・IPS/FFS・VAの電界と分子配列を整理した総説。
  2. シャープ, 液晶ディスプレイの原理. 配向膜・偏光板・TNの白黒切り替えを図解。
  3. Jones, J. C., Liquid crystal displays, Handbook of Optoelectronics(著者原稿), 2018. 複屈折、位相差、配向、応答速度、セル厚の関係を解説。
  4. Analog Devices, How to Power the Automotive TFT-LCD Displays of the (Not so Distant) Future. 画素容量・保持容量・TFTゲート駆動の回路説明。
  5. Mizusaki, M. ほか, Generation mechanism of residual direct current voltage in a liquid crystal display and its evaluation parameters related to liquid crystal and alignment layer materials, Journal of Applied Physics, 2007. 残留DC電圧と残像の関係。
  6. Chen, H.-W. ほか, Liquid crystal display and organic light-emitting diode display: present status and future perspectives, Light: Science & Applications, 2018. LCDの光学効率、表示方式、OLEDとの比較。
  7. 日本半導体製造装置協会(SEAJ), FPD製造工程――カラーフィルタ・セル・モジュール工程. 実際の製造順序。
  8. Samsung Display, LCD 제조공정 - 액정(LC)/셀(cell). 配向膜、ラビング、ODF、スペーサー、貼り合わせの説明(韓国語)。
  9. Ming, W. ほか, Survey of Mura Defect Detection in Liquid Crystal Displays Based on Machine Vision, Crystals, 2021. 表示ムラの分類・原因と評価方法。