KFCのオリジナルチキンはどこまで再現できる?――味・香り・食感を科学から逆算する
KFCのオリジナルチキンを、公式公開情報・有力な推定レシピ・味覚レビュー・揚げ物の食品科学から逆算する。最初に家庭で試せる最有力レシピと工程を具体的な数値で示し、その後で「なぜこの方法なのか」を検証する。
この記事の結論
- KFCらしさは、11種類の香辛料だけでなく、塩味・うま味・コショウ香・薄い衣・圧力フライによる肉質の組み合わせで生まれると考えられる。
- 家庭では商用圧力フライヤーを再現せず、衣付け、油温、中心温度、水分保持を管理して主要な官能特性へ近づける。
- 掲載レシピは公式配合ではなく、公開情報と食品科学から組み立てた検証用の再現仮説である。
KFCの「11種類のハーブ&スパイス」は有名です。
しかし、仮に11種類を完全に当てられたとして、それだけでオリジナルチキンになるのでしょうか。
KFC公式が公開している情報を見ると、答えはおそらく NO です。
オリジナルチキンは、11種類のハーブ&スパイスだけでなく、衣の付け方、粉の状態、圧力釜、温度、時間、油の管理まで含めて作られています。
そこでこの記事では、「秘密のレシピを当てる」ことをゴールにしません。
公式公開情報、有力な推定レシピ、公開されている再現実験や味覚レビュー、食品科学を重ねたとき、家庭でKFCらしさを最も再現しやすい方法は何か。
これを逆算します。
なお、以下はKFCの公式レシピではありません。
現在公開されている情報から組み立てた、知識図書館版・最有力再現仮説です。
先に結論――家庭で最も再現性が高いと考えるレシピ
最初に、この記事の結論をそのまま作れる形で示します。
狙うのは、
- 強めの塩味とうま味
- 白・黒コショウを中心にした複雑な香り
- 前へ出すぎないハーブ
- 厚すぎず、細かく均一に密着した衣
- 通常フライの範囲でできるだけ水分を残した肉
です。
完全な再現ではありません。
最大の差として残るのは、KFC専用の商用圧力フライヤーによる肉内部の物性です。
基準条件
鶏肉
- 骨付き・皮付き鶏もも肉またはドラム:合計 1,000 g
- 1個あたり:120〜180 g
- 最初の比較では同じ部位・同じ重量帯にそろえる
- 冷蔵温度:2〜5℃
部位が違えば脂肪量、筋繊維、水分保持が変わります。
最初からKFCの複数部位を一度に再現するより、ドラムまたはサイのどちらかへ固定した方が、配合と工程の差を評価しやすくなります。
肉側の下処理
鶏肉1,000 gに対して、
- 食塩:5.0 g(肉重量の0.50%)
を全面へ均一にまぶします。
その後、
- 2〜5℃
- 4時間
冷蔵します。
ここで狙うのは、肉そのものを強く塩味にすることではありません。
通常フライで失われやすい水分を少しでも保持しやすい側へ寄せつつ、最終的な塩味は衣側で作る。
という設計です。
砂糖、牛乳、バターミルク、卵、酒などは、最初の検証では入れません。
それぞれが保水、褐変、香り、衣の付着へ影響し、何がKFCらしさを作ったのか分かりにくくなるためです。
スパイス入り粉――基準200 g
| 材料 | 重量 |
|---|---|
| 薄力粉 | 200 g |
| 食塩 | 12 g |
| MSG | 4.0 g |
| 白コショウ | 3.0 g |
| 黒コショウ | 2.5 g |
| パプリカ | 4.0 g |
| ガーリックパウダー | 2.5 g |
| マスタードパウダー | 1.0 g |
| ジンジャーパウダー | 0.7 g |
| セロリパウダーまたは細挽きセロリシード | 0.5 g |
| タイム | 0.3 g |
| バジル | 0.2 g |
| オレガノ | 0.2 g |
合計は約231 gです。
スパイスはできるだけ細かくし、粉全体を最低30秒以上よく混ぜます。
香辛料の局所偏りを避けるため、ボウルを回しながら混ぜます。
なぜ塩は12 gなのか
初期の探索案では、薄力粉200 gに対して食塩20〜24 gという強い配合も候補に置いていました。
ただし、今回の最有力プロトコルでは肉側へ0.50%の塩を先に入れるため、衣側まで同時に強くすると全体が過剰に塩辛くなる可能性があります。
そのため、この記事で実際に試す基準値は12 g とします。
20〜24 gは「塩味をどこまで強めるとKFCらしさが増すか」を探索するための上側候補であり、最初の標準条件ではありません。
最有力工程――家庭版プロトコル v1.0
STEP 1 表面の余分な水分だけを取る
冷蔵庫から出した鶏肉は、流水で洗いません。
家庭のシンクで生鶏肉を洗うと、飛沫による二次汚染のリスクがあるためです。
表面にたまった液体だけをキッチンペーパーで軽く押さえます。
目標は、
表面に液体が流れてはいないが、完全に乾いてもいない状態
です。
乾燥しすぎると粉が付きにくくなります。
逆に濡れすぎると粉が大きなダマになり、KFCのオリジナルチキンから離れた厚い衣になりやすくなります。
STEP 2 家庭版「7-10-7」で衣を付ける
KFC Globalは、Original Recipeの衣付けとして「7-10-7」と呼ばれる工程を公開しています。
家庭では次のように置き換えます。
7回――余分な水分を落とす
3〜4個の鶏肉をザルまたはボウル内で7回ゆっくり転がします。
目的は乾燥ではなく、表面にたまった余分な液体を落とすことです。
10回――粉をすくって持ち上げる
鶏肉をスパイス粉へ完全に埋めます。
ボウルの底から粉をすくい、
粉と鶏肉を持ち上げて落とす動作を10回
行います。
衣をこねません。
粉と水分を練って大きな団子を作るのではなく、細かい粉を肉全体へ均一に接触させます。
7回――粉を圧着する
鶏肉を粉の中で、
手のひらで7回しっかり押します。
目安は、
- 表4回
- 裏3回
です。
最後に持ち上げ、5秒ほど軽く振って余分な粉を落とします。
衣付け後は、2分以内に油へ入れます。
長く放置すると肉表面の水分が粉へ移り、局所的に厚く湿った衣ができやすくなるためです。
STEP 3 油を170℃まで予熱する
油
- クセの弱い菜種油など
- 1.5〜2.0 L
鍋
- 深さのある鍋または家庭用電気フライヤー
- 油は鍋容量の半分以下
1回に揚げる量
- 合計 300〜400 gまで
- およそ2〜3個
一度に大量に入れると油温が急落し、衣への油吸収と水分移動が変わります。
この再現では「何分揚げたか」より、揚げている間の油温をそろえることを優先します。
STEP 4 160℃前後で主加熱する
油を**170℃**まで上げてから、鶏肉を2〜3個入れます。
投入後は油温が下がります。
90秒以内に155〜165℃へ戻る火力
を目標にします。
その後、
160℃ ±5℃
を維持します。
時間は部位と重量で固定せず、中心温度を主基準にします。
目安として、
- 120〜150 gのドラム:8〜11分程度
- 150〜180 gのサイ:10〜14分程度
から確認します。
STEP 5 175℃前後で60〜90秒だけ仕上げる
肉の最も厚い部分が72〜73℃付近まで来たら、油温を175℃前後へ上げます。
その状態で、
60〜90秒
仕上げます。
狙いは肉をさらに乾燥させることではなく、衣表面だけを短時間で整えることです。
安全基準
最終的に鶏肉中心部が、
75℃で1分以上
となるよう加熱します。
温度計の先端が骨へ当たると誤差が出るため、骨を避け、最も厚い肉部分を測ります。
STEP 6 金網60秒+5分休ませる
揚げた直後にキッチンペーパーへべったり置くのではなく、
金網の上で60秒油切り
します。
その後、
室温で5分
休ませます。
評価は揚げた瞬間ではなく、5分後を基準にします。
揚げ上がり直後は、衣表面と肉内部の温度・水分分布がまだ大きく動いており、数分で食感と香りが変わるためです。
どこまで再現できるのか
現時点での机上評価は次の通りです。
| 要素 | 家庭での再現可能性 | 理由 |
|---|---|---|
| 塩味 | 高 | 配合で調整できる |
| うま味 | 高 | MSGなどで調整できる |
| コショウ系の香り | 高 | 白・黒コショウの量と比率を動かせる |
| ハーブの複雑さ | 高 | 少量配合で調整できる |
| 衣の薄さ・密着 | 中〜高 | 粉の状態と衣付け工程でかなり寄せられる |
| 揚げ色 | 中〜高 | 粉・温度・時間で調整できる |
| 肉のやわらかさ | 中 | 通常フライでは限界がある |
| 肉の水分保持 | 中 | 工夫はできるが圧力フライとの差が残る |
| KFC独特の圧力フライ感 | 低 | 専用設備との差が大きい |
つまり、
香りと味、衣の方向性はかなり近づけられる可能性がある。一方、最後まで残りやすい差は肉内部の物性。
というのが現時点の予測です。
家庭で狙えるのは「完全コピー」ではなく、食べたときにKFCらしいと感じる主要な官能特性を再構成することです。
なぜこの方法なのか――ここから味を逆算する
このレシピは、2016年に話題になった「11種類候補」をそのままコピーしたものではありません。
また、家庭でよくある「バターミルクへ漬けて、厚いザクザク衣を作るフライドチキン」とも違います。
理由は単純です。
KFC公式が公開している工程、再現報告で繰り返し指摘される特徴、圧力フライに関する食品科学を重ねると、
KFCらしさは「11種類の名前」より、塩味・うま味・コショウ香・薄い衣・水分を残した肉の組み合わせにある
と考える方が説明しやすいからです。
ここから、その根拠を一つずつ見ていきます。
1. まず「何を再現するのか」――官能プロファイルを決める
「KFCに似ている」という表現だけでは評価できません。
再現対象を、味・香り・食感へ分解します。
| 要素 | KFCらしさとして狙う特徴 |
|---|---|
| 塩味 | はっきりしている |
| うま味 | 鶏肉だけではない厚みを感じる |
| コショウ感 | 鼻へ抜ける。単純な黒コショウ味ではない |
| ハーブ香 | 複雑だが、バジルやオレガノ単独では認識しにくい |
| ニンニク・ショウガ | 前面ではなく、肉とスパイスをつなぐ |
| 衣 | 厚すぎず、比較的なめらかに肉へ密着 |
| 表面 | カリカリ一辺倒ではなく、場所によってしっとり感もある |
| 肉質 | やわらかく、内部の水分が残る |
| 後味 | 塩・うま味・コショウ系の香りが残る |
以降は、この官能プロファイルへ近づくかどうかで候補を評価します。
2. 公式に確認できる情報
日本KFCは、オリジナルチキンについて重要な工程をかなり公開しています。
公式説明では、
- 11種類のハーブ&スパイス
- 圧力釜でじっくり揚げる
- 店舗で1本ずつ手作り
- 最高185℃で約15分
- 一度揚げるごとに油をろ過
- 一度調理するごとに粉を細かい網へ通し、ダマを除去
という工程が示されています。
ここで特に重要なのが、粉のダマをあえて取り除いていることです。
近年のザクザク系フライドチキンでは、粉へ液体を混ぜて大きなフレークを作る方法があります。
しかしKFCのオリジナルチキンは逆です。
公式は、粉を「きめ細かいエアリーな状態」に戻すことで、衣を均一に付着させると説明しています。
したがってKFC再現で、
大きな衣の塊を大量に作る
方向は、少なくともオリジナルチキンの公式工程とは整合しにくいと考えられます。
またKFC Globalが公開した工程では、Original Recipeの衣付けに「7-10-7」と呼ばれる方法が紹介されています。
- 余分な水分を落とす
- 粉の中で10回動かす
- 粉へ7回押し付ける
という流れです。
日本の全店舗で全く同じ工程を採用しているとまでは断定できません。
ただし、細かな粉を均一に、しかもしっかり密着させることを重視している点は、日本KFCの説明とも一致します。
3. 有力な推定情報――2016年に話題になった「11種類候補」
2016年、カーネル・サンダースの親族が所有していたスクラップブックから、11種類のスパイスを書いたメモが見つかったとして大きく報道されました。
そこに書かれていたのは、小麦粉2カップに対して次の組み合わせです。
| 候補 | 記載量 |
|---|---|
| 塩 | 2/3 tbsp |
| タイム | 1/2 tbsp |
| バジル | 1/2 tbsp |
| オレガノ | 1/3 tbsp |
| セロリソルト | 1 tbsp |
| 黒コショウ | 1 tbsp |
| マスタードパウダー | 1 tbsp |
| パプリカ | 4 tbsp |
| ガーリックソルト | 2 tbsp |
| ジンジャー | 1 tbsp |
| 白コショウ | 3 tbsp |
この候補がKFCの本物の配合だと確認されたわけではありません。
KFCは長年、「正確な11種類と配合は秘密」という立場を維持しています。
ただし、この候補には食品科学・官能の面から見て興味深い特徴があります。
特に目立つのは、
- 白コショウが非常に多い
- 黒コショウも多い
- パプリカが多い
- ニンニク・ショウガ・マスタードが入る
- タイム・バジル・オレガノは比較的少ない
というバランスです。
これは「ハーブチキン」というより、
コショウを中心に、香味野菜と少量のハーブで複雑さを作る
配合に見えます。
4. 口コミ・再現報告から見える共通点
公開されている口コミや再現実験は、正式な官能評価試験ではありません。
店舗差、国差、記憶、個人の嗜好も混ざります。
そのため、一つの口コミだけを「証拠」として扱うことはできません。
ここでは、複数の再現報告や味覚コメントで繰り返し現れる特徴を、仮説を絞る材料として使います。
公開されている再現報告では、
- 塩味・うま味が弱いと「KFCっぽくない」
- MSGを加えると近づいたとする報告がある
- 白コショウ、黒コショウを強める方向が支持されることがある
- 粗く厚い衣より、滑らかで薄い衣の方が近いという評価がある
- 圧力フライを再現できないことが大きな差として挙げられる
といった傾向が見られます。
一方、コショウの比率については意見が割れます。
白コショウをかなり強くすると近いという人もいれば、黒コショウの方が支配的だと感じる人もいます。
そこでこの記事では、
「白コショウ3:黒コショウ1」のような固定比率を正解とみなすのではなく、白・黒コショウの合計量を十分に確保し、比率は検証で詰める
という考え方を採用します。
5. 食品科学で検証する――なぜコショウが重要なのか
黒コショウと白コショウは、同じコショウ由来でも香りの印象が異なります。
黒コショウは、比較的明るくシャープな「コショウらしい」香りを出しやすい。
白コショウは、それよりも発酵的、土っぽい、鼻へ残る香りを持ちやすい。
KFCのオリジナルチキンは、食べた瞬間に「タイム味」「オレガノ味」と分かるタイプではありません。
それでも、普通の塩味フライドチキンとは明確に違う香りがあります。
そこで説明しやすいのが、
白コショウと黒コショウを強め、その奥に少量のハーブを隠す
という構造です。
この構成なら、
「何のスパイスか分からないがKFCっぽい」
という感覚を作りやすくなります。
2016年候補と、複数の再現報告がコショウを重要視していることも、この仮説と整合します。
6. MSGは「秘密の12番目のスパイス」ではない
2016年の候補配合を試した報道では、MSGを加えるとKFCらしさが増したとされています。
ただし、MSGを「12番目の秘密のスパイス」と考えるのは少し違います。
MSGの主成分であるグルタミン酸ナトリウムは、主にうま味の強度へ作用します。
つまり役割は、
香りを作る
ことではなく、
鶏肉・塩・脂・香辛料を、一つの強い味としてまとめる
側です。
家庭のコピー品でスパイスの香りは似ているのに「味が薄い」と感じる場合、香辛料をさらに増やすより、塩味とうま味の土台が不足している可能性があります。
そのため再現性を優先するなら、MSGは「11種類のスパイス」とは別枠で検討する価値があります。
7. ハーブは増やしすぎない方がよい
2016年候補には、
- タイム
- バジル
- オレガノ
が入っています。
しかし、これらを強くしすぎると、一気に「洋風ハーブチキン」になります。
KFCらしさはそこではありません。
むしろ、
何のハーブか分からない程度に少量ずつ存在させる
方が、狙っている官能プロファイルとの整合性が高くなります。
したがって家庭再現では、ハーブ3種を主役にせず、背景へ置きます。
8. 最大の壁はスパイスではなく「圧力フライ」
ここまでスパイスを分析してきましたが、最大の再現障壁は別にあります。
KFCはオリジナルチキンを専用の圧力釜で調理しています。
日本KFCは、最高185℃で約15分かけて揚げると説明しています。
食品科学の研究でも、圧力フライと通常フライでは鶏肉の仕上がりが変わります。
比較研究では、圧力フライした鶏肉は通常フライより、
- 水分保持が高い
- ジューシーさが高い
- 油脂量が低い
- やわらかい
傾向が報告されています。
つまりKFCらしさは、
表面のスパイス味だけではなく、「中が意外にしっとりしている」という肉の物性にも存在する
ということです。
9. 家庭では「同じ工程」ではなく「同じ結果」を狙う
家庭にはKFC専用の圧力フライヤーがありません。
したがって、公式工程をそのままコピーすることはできません。
そこで目標を変えます。
工程をコピーするのではなく、最終的な官能特性をコピーする。
圧力フライの重要な効果が「水分保持」と「やわらかさ」なら、家庭では別の方法でその結果へ近づければいい。
今回のプロトコルで、
- 肉へ0.50%だけ先に塩を入れる
- 衣を厚くしすぎない
- 主加熱を160℃前後へ置く
- 最後だけ175℃前後で短時間仕上げる
- 時間ではなく中心温度を基準にする
としているのは、そのためです。
これはKFCと同じ製法ではありません。
しかし「家庭でKFCらしい食感へ近づける」という目的には合理的な置き換えです。
10. 他の再現法と比べると何が違うのか
代表的な方向性を比較します。
| 方法 | 公式情報との整合 | 味覚情報との整合 | 科学的な合理性 | 家庭再現性 |
|---|---|---|---|---|
| 2016年11種候補をそのまま使用 | 中 | 中 | 中 | 高 |
| 11種候補+MSG | 中 | 高 | 高 | 高 |
| ハーブを強くしたコピー | 低〜中 | 低〜中 | 中 | 高 |
| ザクザク厚衣のコピー | 低 | 低 | 中 | 高 |
| コショウ・うま味重視+薄い衣 | 高 | 高 | 高 | 高 |
| 商用圧力フライ完全再現 | 高 | 高 | 高 | 低 |
家庭で最も現実的なのは、
11種類候補をそのまま信じるのではなく、コショウ・うま味を中心に再調整し、薄く均一な衣と水分保持を優先する
方向です。
11. なぜ2016年候補をそのまま使わないのか
2016年候補は非常に興味深い一方で、パプリカや白コショウなどの量がかなり大きく、公開されている再現実験でも評価は一致していません。
そのため今回の仮説では、
- コショウが重要
- ハーブは背景
- ニンニク・ショウガ・マスタードで肉と香りを接続
- MSGでうま味を補強
という構造を残し、量は家庭再現用の初期値として調整しています。
ここで示したグラム数は、「KFCの配合を特定した値」ではありません。
家庭で比較試験を始めるための、仮説の初期値です。
12. この仮説を詰めるなら、最初に振る変数は3つだけ
最初から11種類すべてを微調整すると、何が効いたのか分からなくなります。
そこで最初の比較では、工程を固定し、次の3変数だけを動かします。
A:白コショウと黒コショウの比率
合計5.5 gは固定します。
- A1:白4.0 g / 黒1.5 g
- A2:白3.0 g / 黒2.5 g
- A3:白2.0 g / 黒3.5 g
これで「KFCらしい鼻抜け感」を、どの比率が最も説明するか確認できます。
B:MSG量
薄力粉200 gに対して、
- B1:0 g
- B2:2 g
- B3:4 g
を比較します。
これにより、スパイスの香りではなく、味の厚みそのものへの寄与を分離できます。
C:衣付け圧
スパイス配合を固定し、
- C1:3回押す
- C2:7回押す
- C3:10回押す
を比較します。
衣の密着感、厚さ、油っぽさがどう変わるかを見るためです。
この3項目で方向が見えてから、パプリカ、ハーブ、ガーリック、セロリなどを微調整します。
13. 家庭で圧力フライは再現しない
家庭用圧力鍋へ大量の油を入れ、密閉して揚げることは行いません。
KFCが使うものは、揚げ物用として設計された商用圧力フライヤーです。
家庭用圧力鍋による圧力揚げは、今回の再現工程には含めません。
したがって本プロトコルで狙うのは、
- 香り
- 塩味
- うま味
- 衣の薄さ
- 衣の密着
- 通常フライで可能な範囲の水分保持
までです。
圧力フライ固有の肉質差は、最初から再現不能要因として残す方が、検証として正確です。
14. 「11種類を当てること」がゴールではない
KFC再現というと、どうしても秘密の11種類に注目が集まります。
しかし、ここまで分解すると見え方が変わります。
仮にスパイスが100%一致しても、
- 衣が厚い
- 粉がダマだらけ
- 肉が乾いている
- 油を吸いすぎている
なら、KFCらしくありません。
逆にスパイスの一部が本物と違っていても、
- 塩味とうま味
- コショウ中心の香り
- 背景にあるハーブ
- 薄く密着した衣
- 水分を残した肉
が揃えば、人間が感じる「KFCらしさ」はかなり高くなる可能性があります。
つまり、
食品の再現とは「原材料を当てるゲーム」ではなく、最終的に人間が感じる味・香り・食感を再構成すること。
これが「味を逆算する」シリーズの基本的な考え方です。
15. 分かっていること/合理的に推定できること/まだ分からないこと
分かっていること
- KFCは11種類のハーブ&スパイスを使用している
- 圧力釜で調理している
- 日本では最高185℃、約15分と説明している
- 粉を毎回ふるい、ダマを取り除いている
- 店舗で手作業で衣付けしている
- 圧力フライは通常フライと比べ、鶏肉の水分保持やジューシーさに影響し得る
合理的に推定できること
- KFCらしさにはコショウ系の香りが大きく寄与している可能性が高い
- ハーブ類は単独で主張するより、背景の複雑さを作っている可能性が高い
- MSGを含むうま味強化は、複数の再現報告と官能特性を説明しやすい
- 家庭では厚いザクザク衣より、薄く均一な粉衣の方がオリジナルチキンへ近づきやすい
- 圧力フライを使えない家庭では、水分保持を別工程で補う方が最終的な再現度は上がる可能性がある
現時点では分からないこと
- 現在の正確な11種類
- 各スパイスの正確な比率
- 店舗用調味粉に含まれる全成分と配合
- 圧力釜の詳細な圧力プロファイル
- 日本の店舗工程と海外公開工程の完全な同一性
したがってこの記事の結論は、
「KFCの秘密のレシピはこれだ」ではない。
公開情報から逆算すると、家庭では『コショウとうま味を中心にした複雑な香り』『薄い均一な衣』『水分を残す加熱』を再現する方法が、最もKFCらしさへ近づきやすいと考えられる。
というところまでです。
それ以上を断定するには、実際のレシピそのものが必要です。
しかし、料理を科学として考えるなら、ここがむしろ面白いところです。
同じ味へ到達するために、必ずしも同じ材料・同じ工程を通る必要はない。
料理は「レシピ」ではなく、
材料 × 熱 × 水分 × 油 × 香り × 食感 × 人間の感覚
の結果として存在しているからです。
次に読む
参考資料
KFC公式
- 日本KFC「おいしさへのこだわり 秘伝のレシピ」
https://www.kfc.co.jp/about_kfc/commitment/secretrecipe - KFC Global, “THE ALL-NEW #KFCINSIDER MOVEMENT”
https://global.kfc.com/press-releases/the-all-new-kfcinsider-movement - KFC Global, “Often imitated, never duplicated”
https://global.kfc.com/stories/often-imitated-never-duplicated
11種類候補・再現検証
- 2016年に報道された、カーネル・サンダース親族のスクラップブック由来とされる11種候補
- Chicago Tribune系の再現検証を紹介した報道
- Glen & Friends Cooking “Cracking The KFC Recipe” series
- Reddit /r/Cooking, /r/kfc, /r/TopSecretRecipes などの公開再現報告
※口コミ・投稿は正式な官能評価試験ではなく、仮説形成の補助情報として使用。
食品科学
- Quality characteristics of battered and fried chicken: comparison of pressure frying and conventional frying.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3550924/ - Effect of conventional and pressure frying on lipids and fatty acid composition of fried chicken and oil.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3550909/ - 厚生労働省「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/campylobacterqa.html
※本記事はKFC、日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社、Yum! Brands等とは提携・監修関係にありません。公開情報と食品科学から「再現可能性」を考察した独立した分析記事です。また、家庭用圧力鍋で油を密閉加熱する圧力フライは危険なため行わないでください。
関連する記事
揚げるを科学する|なぜ衣はサクッとし、中はジューシーになるのか
揚げるという調理法を、熱伝達・水分蒸発・油温・衣・気泡・油の侵入・二度揚げから科学する。なぜサクッとするのか、なぜベチャつくのか、油温は何℃が良いのかまで体系的に解説する。
肉を科学する|なぜ同じ肉でも「焼く」「煮る」「低温調理」で正解が変わるのか
牛・豚・鶏の肉を科学する。筋繊維、結合組織、コラーゲン、脂肪、水分、ミオグロビンを軸に、なぜ部位ごとに最適な火入れが違うのかを体系的に解説する。
味覚って何?|「うまい」と「まずい」の境界線を科学する
料理の「おいしい」「まずい」は何で決まるのか。五基本味、香り、食感、温度、三叉神経、遺伝、経験と学習まで分解し、人間が料理をおいしいと感じる仕組みを科学する。
火入れって何?|焼く・煮る・蒸す・揚げるで、食材の中では何が起きている?
料理の「火入れ」を科学する。焼く・煮る・蒸す・揚げる・低温調理・電子レンジで、熱の伝わり方、水分、タンパク質、脂肪、糖、細胞壁がどう変化し、味と食感がどう変わるのかを体系的に解説する。
野菜を科学する|茹でる・蒸す・炒める・焼くで、食感・甘味・色はなぜ変わる?
野菜を細胞壁・ペクチン・セルロース・デンプン・水分・色素・酵素から科学する。茹でる、蒸す、炒める、焼く、電子レンジで食感・甘味・色・栄養がどう変わるのかを体系的に解説する。
煮るを科学する|「味が染みる」「柔らかくなる」「煮崩れる」は何が起きている?
煮るという調理法を、熱伝達・拡散・浸透・溶出・濃縮・組織変化から科学する。大根、肉、じゃがいも、豆などで何が起きるのか、弱火・強火・落とし蓋・冷ます・圧力鍋・時短まで体系的に解説する。