エッチングとは?――半導体の形をつくる「削る工程」
エッチングとは何かを、パターン転写、マスク、ウェットエッチングとドライエッチングの違い、選択比、異方性、断面形状、終点検出、オーバーエッチ、ローディング、ARDE、材料別の考え方まで体系的に解説する。
この記事の結論
- エッチングは、リソグラフィで作ったパターンを実際の膜や基板へ転写する工程
- ウェットとドライでは、反応の進み方・異方性・選択比・装置構成が大きく異なる
- エッチングは速度だけでなく、選択比、均一性、断面形状、下地ダメージ、残渣まで同時に管理する必要がある
まず結論
エッチングは、膜や基板の不要な部分を選択的に取り除き、設計した形を実際の材料へ転写する工程です。
半導体製造では、リソグラフィでレジストにパターンを作っただけでは、まだ回路そのものは完成していません。
そのパターンを使って、
- シリコン
- 酸化膜
- 窒化膜
- 金属膜
- 絶縁膜
- 有機膜
などを実際に削り、必要な形を作るのがエッチングです。
一言でいえば、
リソグラフィが「どこを加工するか」を決め、エッチングが「実際にその形を作る」
という関係です。
ただし、エッチングは単に材料を減らす工程ではありません。
重要なのは、
- どの材料を削るか
- どの材料は残すか
- 横に削るか、縦に削るか
- どの速度で削るか
- 面内でどれだけ均一か
- 下地を傷めないか
- どこで止めるか
- 最終断面が設計通りか
を同時に制御することです。
つまりエッチングの本質は、
「除去量」ではなく「形状と選択性を制御すること」
にあります。
半導体製造の中で、エッチングはどこにある?
代表的な流れを単純化すると、
となります。
たとえば酸化膜へ細い溝を作りたい場合、
- 酸化膜を形成する
- レジストへ目的形状を描く
- 開口部だけ酸化膜を露出させる
- エッチングで露出部を除去する
- レジストを除去する
ことで、レジストの形が酸化膜へ転写されます。
これをパターン転写と呼びます。
エッチングの前に、なぜマスクが必要なのか
削りたい場所だけ材料を露出させるために、表面をマスクで覆います。
代表的なマスクは、
- フォトレジスト
- 酸化膜
- 窒化膜
- カーボン系ハードマスク
- 金属系ハードマスク
などです。
マスクに必要なのは、
削りたい材料よりも、削られにくいこと
です。
もし目的膜より先にマスクがなくなれば、設計した形を最後まで転写できません。
「選択比」が重要になる理由
ある材料Aと、マスクや下地Bのエッチング速度を比較したものが選択比です。
たとえば、
- 目的膜:100 nm/min
- マスク:10 nm/min
なら、
です。
つまり目的膜の方が10倍速く削れます。
選択比が高ければ、薄いマスクでも厚い膜を加工しやすくなります。
選択比は「マスクに対して」だけではない
選択比は、
- 目的膜 / マスク
- 目的膜 / 下地
- 材料A / 材料B
のように、どの組み合わせを見るかで意味が変わります。
たとえば酸化膜を削り、その下のシリコンで止めたいなら、
酸化膜は速く削れる
シリコンはできるだけ削れない
条件が必要です。
逆にシリコンを掘って酸化膜で止める場合は、その逆が必要です。
つまり、
エッチング条件は「何を削るか」だけでなく、「何を残したいか」で決まる
ということです。
エッチング速度が速ければ優秀なのか
必ずしもそうではありません。
エッチングでは、
- 速度
- 選択比
- 均一性
- 断面形状
- 表面粗さ
- ダメージ
- 残渣
- 再現性
を同時に見る必要があります。
たとえば速度だけを上げると、
- マスク消耗が増える
- 下地まで削る
- 側壁が荒れる
- 面内ばらつきが増える
- プロファイルが崩れる
ことがあります。
したがって、
最速条件ではなく、目的形状を安定して作れる条件
が良いエッチング条件です。
ウェットエッチングとドライエッチング
エッチングは大きく、
- ウェットエッチング
- ドライエッチング
に分けられます。
両者は「液体か気体か」という違いだけではありません。
反応の進み方、方向性、装置、量産性、微細加工適性が大きく異なります。
ウェットエッチングとは?
ウェットエッチングは、液体の薬液を使って材料を化学的に溶解除去する方法です。
代表的には、
- 酸
- アルカリ
- フッ酸系
- 酸化剤を含む混酸
などが使われます。
材料表面で化学反応が起こり、反応生成物が液中へ溶け出すことで加工が進みます。
ウェットエッチングの強み
ウェットエッチングには、
- 装置構成が比較的単純
- 一度に複数枚を処理しやすい
- 高い選択比を得やすい場合がある
- 反応が速い
- 大面積処理に向く場合がある
などの利点があります。
特に、
特定材料だけを化学的に選んで除去したい
場合には非常に強力です。
ウェットエッチングの弱点
一方、液体中の化学反応は多くの場合、特定方向だけに進むわけではありません。
そのため、横方向にも削れます。
これを等方性エッチングと呼びます。
マスクの下側まで横に削れる現象をアンダーカットと呼びます。
微細な垂直構造では、この横削れが問題になります。
ただしウェット=必ず等方性ではない
ここは重要です。
シリコン単結晶では、結晶方位によって反応速度が異なる薬液があります。
たとえばKOHやTMAHなどを使うと、結晶面によって削れ方が変わり、V溝など特徴的な形状を作れます。
これを異方性ウェットエッチングと呼びます。
つまり、
ウェット=等方性
ドライ=異方性
と単純に覚えるのは正確ではありません。
ドライエッチングとは?
ドライエッチングは、気体やプラズマを使って材料を除去する方法です。
特に半導体微細加工では、プラズマ中に作られる、
- ラジカル
- イオン
- 励起種
を利用します。
ラジカルは主に化学反応を進め、イオンは方向性を与えます。
なぜドライエッチングは垂直に削りやすいのか
プラズマと基板の間にはシースと呼ばれる領域ができます。
正イオンはシースの電界によって基板方向へ加速されます。
そのため、
上から下へ向かう作用を強くできる
のがドライエッチングの特徴です。
さらに、材料によっては側壁へ保護膜を作り、横方向の反応を抑えます。
これにより、
- 細い穴
- 深い溝
- 垂直側壁
を作りやすくなります。
ウェットとドライはどちらが優れている?
どちらか一方が上位ということではありません。
目的によって使い分けます。
| 項目 | ウェットエッチング | ドライエッチング |
|---|---|---|
| 主な反応場 | 液体 | 気体・プラズマ |
| 化学反応 | 強い | 化学+イオン作用 |
| 方向性 | 等方的になりやすい | 異方性を作りやすい |
| 微細加工 | 条件依存 | 高精度加工に強い |
| 選択比 | 高くできる場合が多い | 条件設計が重要 |
| 装置 | 比較的単純 | 真空・RF・プラズマが必要 |
| バッチ処理 | 得意な場合が多い | 装置方式による |
| 主な課題 | アンダーカット、液管理 | ダメージ、帯電、残渣、均一性 |
実際の製造ラインでは、両方が使われます。
エッチングで重要な「異方性」
エッチングの方向性を表す考え方が、
- 等方性
- 異方性
です。
等方性
全方向へほぼ同じように削れます。
図2左のように、開口から横方向にも加工が広がります。
異方性
特定方向へ強く加工します。
図2右のように、横削れを抑えながら深さ方向へ加工します。
微細配線や高アスペクト比構造では、縦方向へ強く加工できる異方性が重要です。
断面形状は「削れたか」以上に重要
エッチング後の断面形状をプロファイルと呼びます。
代表的な形状異常には、
- テーパー
- 逆テーパー
- ボーイング
- アンダーカット
- ネッキング
- マイクロトレンチ
などがあります。
同じエッチング深さでも、断面形状が違えばデバイス性能や後工程に影響します。
たとえば細い配線溝では、側壁形状が崩れると、
- 配線幅
- 埋め込み性
- 絶縁距離
- 電気特性
が変わります。
エッチング量だけでは足りない
量産では少なくとも、
- エッチング速度
- 選択比
- 面内均一性
- 深さ
- CD
- 側壁角
- 表面粗さ
- 残渣
- ダメージ
などを評価します。
つまり、
「何nm削れたか」だけでは、良いエッチングかどうか判断できない
ということです。
面内均一性とは?
同じウェハ上でも、中心と外周で削れ方が違うことがあります。
これを面内均一性の問題として扱います。
原因は、
- 薬液流れ
- ガス分布
- プラズマ密度
- 温度
- 電界
- 排気
- パターン密度
など様々です。
特に大面積化すると、局所的な条件差が大きな問題になります。
同じ条件でも、パターンによって削れ方が変わる
ここから実際の微細加工らしい問題になります。
同じレシピでも、
- 開口率
- パターン密度
- 穴径
- 溝幅
- 深さ
によってエッチング速度が変わることがあります。
ローディング効果
削る面積が大きいと、それだけ反応種を消費します。
そのため、
パターンが密集している場所
と
孤立している場所
で速度が変わることがあります。
これをローディング効果と呼びます。
マイクロローディング
ウェハ全体ではなく、局所的なパターン密度によって速度が変わる現象です。
たとえば、
で、同じ条件でも深さが揃わないことがあります。
ARDEとは?
ARDEは、
Aspect Ratio Dependent Etching
の略で、日本語ではアスペクト比依存エッチングと呼べます。
穴や溝が深くなるほど、
- ラジカルが底へ届きにくい
- 反応生成物が抜けにくい
- イオンの角度分布が効く
- 帯電の影響が出る
ため、エッチング速度が低下することがあります。
つまり、
深く掘るほど、同じ条件では掘りにくくなる
という現象です。
RIE Lagとは?
開口寸法の違いによって、狭い穴ほどエッチングが遅れる現象をRIE Lagと呼ぶことがあります。
ARDEと密接に関係する現象です。
微細加工では、
大きな開口は深い
小さな開口は浅い
という差として現れることがあります。
終点検出とは?
膜を削るとき、
いつ目的膜がなくなったか
を判断する必要があります。
このタイミングを終点と呼びます。
終点を判断する方法には、
- 時間
- 発光
- 干渉
- ガス組成変化
- 電気的変化
などがあります。
なぜオーバーエッチが必要なのか
膜厚には必ずばらつきがあります。
例えば平均膜厚が100 nmでも、面内で95 nm、100 nm、105 nmのような差が生じます。
のように場所によって違うことがあります。
100 nm分だけ削った時点では、厚い場所がまだ残る可能性があります。
そこで、終点後も一定時間処理を続けます。
これがオーバーエッチです。
オーバーエッチを増やせば安全なのか
増やしすぎると、
- 下地まで削る
- マスクが消耗する
- CDが変わる
- ダメージが増える
- 表面粗さが悪化する
可能性があります。
したがって、
全領域を確実に抜くこと
と
下地を守ること
の間で最適化します。
材料ごとに「削り方」が違う
エッチングは、材料と化学反応の組み合わせです。
代表的な例を簡略化すると、
材料 代表的な考え方
Si F系・Cl系・Br系などを利用 SiO₂ フルオロカーボン系を利用 SiN F系、フルオロカーボン系で選択性調整 Al Cl系などを利用 有機膜・レジスト O₂系で酸化分解 Cu 揮発性生成物を作りにくく、条件設計が難しい
ただし「材料Aには必ずガスB」という固定対応ではありません。
実際には、
- 下地
- マスク
- 目的形状
- 温度
- 装置
- 圧力
- 選択比
を合わせて条件を決めます。
「反応生成物が揮発するか」が重要
エッチングでは、表面で反応が起きるだけでは不十分です。
反応生成物が表面から離れなければ、そこに残って加工が止まります。
材料表面で反応し、生成物が脱離して、排気または液中へ排出されるまで進んで初めて材料が除去されます。
このため、
- 温度
- 圧力
- ガス種
- 表面状態
も重要になります。
エッチングと洗浄はつながっている
エッチング後には、
- 反応生成物
- ポリマー
- 金属残渣
- レジスト残り
- パーティクル
が残ることがあります。
そのため、エッチング後には洗浄やアッシングが入ることがあります。
つまり、
エッチングが終わった時点で工程が完全に終わるわけではない
ということです。
次工程で成膜や接続を行うなら、表面状態まで整える必要があります。
前工程では「前後工程とのつながり」で考える
エッチング条件だけを局所最適化すると、次工程で問題になることがあります。
例えば、
「リソグラフィ → エッチング → 洗浄 → 成膜」という前後工程の流れでは、
- レジスト形状
- エッチング側壁
- 残渣
- 表面粗さ
が次の成膜性へ影響します。
そのため、
エッチング単体の性能ではなく、前後工程を含めて良品になるか
で判断します。
装置側から見ると何が必要?
ウェットエッチングでは、
- 薬液供給
- 温度管理
- 循環
- 濃度管理
- 排液
- 洗浄
- 乾燥
などが重要です。
ドライエッチングでは、
- 真空
- ガス供給
- プラズマ
- RF
- 電極
- 温度制御
- 排気
- 整合
などが重要です。
つまり同じ「エッチング」でも、ウェットとドライでは装置の考え方がかなり異なります。
エッチング不良は、化学反応だけが原因ではない
実際の装置では、
- ガス流量
- 薬液濃度
- 温度
- 圧力
- RF
- 電極状態
- チャンバー壁
- 排気
- 搬送
- マスク状態
などが結果へ影響します。
特にドライエッチングでは、
プラズマ条件
→ RF負荷
→ シース
→ イオンエネルギー
→ 表面反応
がつながっています。
そのため、エッチングは化学だけではなく、
- 化学
- 物理
- 真空
- 高周波
- 熱
- 流体
が交差する工程です。
ウェットとドライは競合ではなく「役割分担」
半導体製造では、
ウェットよりドライの方が新しくて高性能
という見方は適切ではありません。
ウェットにはウェットの強みがあり、ドライにはドライの強みがあります。
例えば、
- 微細な垂直構造 → ドライ
- 高い材料選択性 → ウェットが有利な場合
- 大面積一括処理 → ウェットが有利な場合
- 深い微細構造 → ドライ
- 結晶方位利用 → ウェット
のように、目的に応じて選びます。
エッチングで最終的に見たいもの
エッチングを評価するとき、最終的に重要なのは、
設計した構造が、狙った寸法と材料状態で作れたか
です。
したがって、
図3のように、エッチング速度、深さ、選択比、側壁形状、CD、残渣、下地ダメージを経て、最終的な電気特性までつながります。
製造工程としてのエッチングは、
材料を削る技術
ではなく、
デバイス構造を成立させる形状制御技術
と考える方が本質に近いです。
ここから先は2つに分かれる
エッチングの全体像を理解したら、次は方法ごとに分かれます。
ウェットエッチングへ
液体薬液による、
- 反応
- 溶解
- 選択比
- 結晶異方性
- アンダーカット
- 薬液管理
- 洗浄
- 乾燥
を詳しく見ます。
ドライエッチングへ
プラズマを使った、
- ラジカル
- イオン
- シース
- 異方性
- 側壁保護
- ICP / CCP
- ソースRF / バイアスRF
- ARDE
- ローディング
- チャンバー状態
を詳しく見ます。
どちらを先に読めばいい?
初めて学ぶなら、
- この「エッチングとは?」で全体像
- ウェットエッチングで化学反応と選択性
- ドライエッチングでプラズマと異方性
の順でも理解しやすいです。
ただし微細加工や半導体装置に興味があるなら、ドライエッチングから進んでも問題ありません。
最後に
エッチングは、半導体製造で「削る工程」と説明されます。
しかし本当に重要なのは、削ることそのものではありません。
残したい材料を守りながら、必要な方向へ、必要な深さまで、必要な形で除去すること
です。
そのためには、
- マスク
- 選択比
- 反応
- 方向性
- 均一性
- 終点
- オーバーエッチ
- 断面形状
- 前後工程
を同時に考える必要があります。
そして、その実現方法が大きく、
ウェットエッチング
と
ドライエッチング
に分かれます。
この2つを理解すると、半導体の「形がどうやって作られているのか」が一気に見えやすくなります。