何も食べてないのに臭う?! 空腹時の口臭を科学する
何も食べていないのに、空腹になると口が臭うのはなぜでしょうか。長時間の絶食では唾液、舌苔、VSCだけでなく、脂肪代謝による呼気アセトンも変化します。『空腹口臭』の二つの経路を科学します。
この記事の結論
- 空腹時口臭には、口腔内でVSCが増える経路と、長時間絶食・ケトーシスで呼気アセトンが増える経路を分けて考える必要がある。
- 生理的口臭は唾液流量低下や食事・咀嚼のない時間が長いほど強くなりやすい。
- 2024年の長期絶食研究ではVSCや口腔微生物叢の変化が調べられている。
- 呼気アセトンは血中ケトン体と関連し、口腔内細菌由来VSCとは異なる全身性の呼気成分である。
朝ごはんを食べていない。
昼食が遅れた。
夕方まで何も口にしていない。
すると、
「何も食べていないのに、なんか口が臭う」
ことがあります。
普通に考えると、
変です。
食べ物が口臭の原因なら、
何も食べていない方がきれいなはず
だからです。
ところが、
口臭は、
食べかすの臭いだけではありません。
空腹時には、
少なくとも二つの経路を考える必要があります。
1つは、
口の中で作られるVSC。
もう1つは、
脂肪代謝で生じるケトン体由来の呼気。
空腹時口臭は昔から知られている
口臭研究では、
絶食時や起床時に生理的口臭が強くなる
ことが古くから知られています。
1977年のレビューでも、
唾液流量が少なく、
食物や水分を取らない時間が長いほど、
口腔由来の悪臭が強くなると整理されています。
つまり、
何も食べていないから臭わない、
ではありません。
むしろ、
何も食べない時間が長いこと自体が、口臭を強くする条件
になり得ます。
理由1:咀嚼しない
食べると、
私たちはかなり舌を動かします。
かむ。
飲み込む。
唾液が出る。
食物が舌表面をこする。
こうした動きが、
口の中を物理的に動かします。
ところが、
空腹時は、
この活動が減ります。
つまり、
口の中の自然な掃除が止まりやすい
のです。
理由2:唾液の刺激が減る
食事をすると、
味覚や咀嚼によって、
唾液分泌が増えます。
何も食べなければ、
この刺激唾液が出ません。
すると、
細菌や代謝物を流す作用も弱くなります。
特に、
もともと唾液が少ない人では、
空腹時に口臭を感じやすくなる可能性があります。
理由3:舌苔でVSCが作られる
口腔内由来口臭の主要物質は、
VSC(揮発性硫黄化合物)
です。
舌背などにいる嫌気性菌が、
タンパク質やアミノ酸を代謝し、
硫化水素やメチルメルカプタンを作ります。
つまり、
食事をしていなくても、
口の中には、
- 唾液由来タンパク質
- 剥離上皮
- 歯肉溝滲出液
など、
細菌が使える材料があります。
「何も食べていない」
は、
「細菌のエサがゼロ」
ではありません。
長時間の絶食を調べた研究もある
2024年には、
36人が平均10日前後の長期絶食を行い、
- 呼気VSC
- 歯肉溝の炎症マーカー
- 唾液細菌叢
を調べた研究があります。
著者らは、
長期絶食中に、
口臭が臨床的にしばしば報告されることを背景に研究しています。
ここで面白いのは、
空腹時の臭いが、
単なる「胃の空っぽ臭」ではなく、
口腔微生物叢やVSCまで含む現象
として研究されている点です。
でも空腹口臭には、もう一つの臭いがある
それが、
アセトン
です。
長時間食事をとらないと、
体は脂肪をより多くエネルギー源として使います。
肝臓では、
ケトン体が増えます。
その一つであるアセトンは、
揮発性が高いため、
肺から呼気へ出ます。
ケトン臭は「口の中で作られた臭い」ではない
ここが重要です。
VSCは、
主に口腔内細菌が作ります。
一方、
呼気アセトンは、
体内の代謝で生じ、血液から肺へ移動して息として出ます。
つまり、
同じ「息が臭う」でも、
発生場所が違います。
VSC
口の中 → 息アセトン
体内代謝 → 血液 → 肺 → 息
です。
12時間程度でも呼気アセトンは変化する
健康成人6人を対象にした研究では、
12時間絶食後に呼気を測定し、
その後食事を与えました。
呼気アセトンは、
絶食時に最も高く、食後に低下
しました。
別の研究でも、
呼気アセトンは、
血中ケトン体と関連する指標として使えることが示されています。
つまり、
長時間の空腹で、
体内代謝由来の息の成分が変わることは実際にあります。
「空腹臭=ケトン臭」ではない
ここはよく混同されます。
お腹が空いた。
口が臭う。
だからケトン臭。
とは限りません。
普通の日常的な数時間の空腹では、
口腔内の、
- 唾液
- 舌苔
- VSC
の影響も大きいです。
一方、
長時間の絶食、
極端な糖質制限、
ケトジェニック食などでは、
呼気アセトンの影響が強くなります。
両者は分ける必要があります。
ケトン臭はどんな臭い?
しばしば、
- 甘い
- 果物様
- 除光液様
などと表現されます。
一方、
口腔内VSCは、
- 腐敗臭
- 硫黄臭
- 生臭さ
などと表現されることがあります。
ただし、
人間の鼻だけで、
正確に化学物質を特定することはできません。
空腹時に水を飲むとマシになる理由
水を飲むと、
口の中が湿ります。
さらに、
口腔内に残った代謝物を、
一時的に流すことができます。
VSC主体の口臭なら、
多少改善する可能性があります。
しかし、
血液から肺へ出ているアセトンなら、
口をゆすぐだけで完全に消すことはできません。
ここでも、
臭いの発生場所が重要
です。
朝食を食べると口臭が減る理由
食事をすると、
- 唾液が増える
- 舌が動く
- 咀嚼する
- 嚥下する
ため、
口腔内の自浄作用が再開します。
さらに、
長い絶食状態が終わることで、
全身代謝も変化します。
だから、
「朝食後に息がマシになる」
という現象には、
口腔内と全身、
両方の要素が関係し得ます。
ダイエット中の口臭は?
極端な糖質制限や、
長時間の絶食を行うと、
ケトーシスが強くなり、
呼気アセトンが増えることがあります。
この場合、
歯を磨いても、
息の臭いが完全には消えないことがあります。
なぜなら、
臭気物質が、
肺から出ている
からです。
ただし「口臭=ケトーシス」とは限らない
ダイエット中でも、
舌苔。
口腔乾燥。
歯周病。
食事回数低下。
など、
口腔由来の要因は普通にあります。
したがって、
一つの原因に決めつけるべきではありません。
結論:「何も食べていない」は、無臭になる条件ではない
空腹時の口臭は、
不思議に見えます。
でも、
食べ物そのものが口臭の主因ではないと分かれば、
説明できます。
口の中では、
食事をしていなくても、
細菌が代謝を続けています。
さらに、
長時間の絶食では、
体内代謝も変わり、
呼気アセトンが増えます。
つまり、
空腹時の臭いには、
口の中から出る臭い
と
体の中から肺を通って出る臭い
の両方があり得るのです。
参考文献
- Tonzetich J. Production and origin of oral malodor.
- Loumé A, et al. Impact of Long-term Fasting on Breath Volatile Sulphur Compounds.
- Smith D, et al. Trace gases in breath of healthy volunteers when fasting and after a protein-calorie meal.
- Breath acetone is a reliable indicator of ketosis in adults consuming ketogenic meals
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