口臭の87%は胃じゃない?! 「胃が悪いから臭う」を科学する
口臭がすると『胃が悪いのでは?』と言われますが、厚生労働省資料では口臭原因の87%が口腔内にあるとされています。胃・消化器由来の口臭はどこまで本当なのか、H. pylori研究も含めて科学します。
この記事の結論
- 口臭の大部分は胃ではなく口腔内に由来する。
- 厚生労働省資料では口臭原因の87%が口腔内にあると紹介されている。
- システマティックレビューでも80〜90%が口腔内要因と整理されている。
- 消化器疾患やH. pyloriと口臭の関連を示した研究はあり、胃由来を完全否定することも正しくない。
- H. pyloriとの関連研究があっても、一般的な口臭の第一候補が胃になるわけではない。
口が臭う。
すると、
かなり高い確率で言われる一言があります。
「胃が悪いんじゃない?」
日本では特に、
口臭=胃
というイメージが強くあります。
なんとなく、
胃の中で食べ物が腐り、
その臭いが上まで上がってきて、
口から出ている。
そんなイメージです。
しかし、
口臭研究を見ると、
この説明は、
一般的な口臭の原因としてはかなりズレています。
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、
口臭原因の87%が口の中にある
と紹介されています。
つまり、
大多数の口臭で最初に見るべき場所は、
胃ではありません。
口です。
口臭の80〜90%は「口の中」
2023年のシステマティックレビューでも、
口臭の原因を整理した結果、
80〜90%が口腔内要因
とされています。
主要な要因は、
- 舌苔
- 歯周病
- 不十分な口腔衛生
などです。
口の中には、
VSCという強い臭気を持つ物質を作る環境があります。
その中心が、
舌苔や歯周ポケットです。
なぜ「胃が臭う」と思われてきた?
直感的には分かりやすいからです。
胃には食べ物が入っています。
食後にげっぷが出れば、
食べた物の臭いを感じることもあります。
胸焼けや逆流症状があれば、
なおさら、
「胃から臭いが上がってきた」
ように感じます。
しかし、
げっぷの臭い
と、
日常的に続く一般的な口臭は、
同じ現象とは限りません。
一般的な口臭は、口の中で「作られる」
口腔由来口臭の主要物質は、
VSC(揮発性硫黄化合物)
です。
主に、
- 硫化水素
- メチルメルカプタン
- ジメチルサルファイド
など。
口腔内の嫌気性菌が、
タンパク質やアミノ酸を分解して産生します。
つまり一般的な口臭では、
胃から臭いが上がる
よりも、
舌や歯周ポケットで細菌が臭気物質を作る
という仕組みの方が圧倒的に重要です。
では胃は絶対に関係ない?
いいえ。
ここで、
「胃は絶対に無関係」
と反転してしまうのも間違いです。
口臭には、
口腔外から発生するものもあります。
消化器疾患との関連についても研究されています。
特に有名なのが、
Helicobacter pylori(ピロリ菌)
です。
ピロリ菌と口臭には関連がある?
あります。
ただし解釈が必要です。
2016年のメタ解析では、
口臭のある人とない人を比較したところ、
口臭群でH. pylori感染が多い
という関連が報告されました。
さらに、
H. pylori除菌後に口臭が改善した研究も含まれています。
これだけ見ると、
やっぱり胃が原因じゃないか
と思えます。
しかし、
話はそこまで単純ではありません。
「関連がある」と「胃から臭いが出ている」は違う
H. pylori感染者で口臭が多いとしても、
それだけでは、
胃の中の臭いがそのまま口まで上がっている
ことを証明しません。
2002年の研究では、
H. pylori陽性者で口腔内の臭気が強く、
硫化水素やジメチルサルファイドが高い傾向がみられました。
ところが、
呼気として比較した場合には有意差が確認されませんでした。
研究者は、
H. pyloriが単純に全身を介して呼気臭を作っているとは言い切れない、
という趣旨の考察をしています。
つまり、
胃と口臭の研究には、
まだ機序がはっきりしない部分があります。
口臭とH. pyloriが一緒に見つかる理由は複数考えられる
たとえば、
- 胃腸症状と口腔環境が同時に変化している
- H. pyloriが口腔にも関連している
- 対象者の口腔状態という交絡因子がある
- 消化器症状や逆流が間接的に影響する
など、
複数の経路が考えられます。
したがって、
H. pyloriとの関連がある
ことと、
一般的な口臭は胃が原因
という主張は別です。
「口臭の87%が口」という数字の意味
この数字は、
かなりインパクトがあります。
でも、
87%以外は全部胃、
という意味ではありません。
口腔外口臭には、
- 鼻・副鼻腔
- 呼吸器
- 全身疾患
- 代謝性疾患
- 一部の消化器疾患
など、
さまざまな原因があります。
つまり、
口 87%
胃 13%
ではありません。
ここは誤解しない方がいいでしょう。
全身から「息が臭う」ことは実際にある
ニンニクを食べた後を考えると分かりやすいです。
一部の臭気成分は、
消化管から吸収され、
血液中に入り、
肺から排出されます。
この場合、
歯を磨いても、
呼気そのものに臭気成分が含まれるため、
完全には消えません。
同じように、
一部の代謝性疾患では、
体内で作られた揮発性物質が肺から出ることがあります。
つまり、
「口から臭う」=必ず口で作られた
でもありません。
ただし、
それは一般的な口臭の多数派ではない、
ということです。
胃薬を飲めば口臭が治る?
原因が胃だと決めつけると、
ここに飛躍します。
口臭
↓
胃が悪い
↓
胃薬を飲む
しかし、
主要な原因が舌苔や歯周病なら、
胃薬を飲んでも、
口臭発生源は残ります。
だから、
原因を確認せず、
「胃だろう」
と決めつけることは、
口臭対策として効率がよくありません。
まず見るべきは、舌と歯ぐき
一般的な口臭なら、
まず考えるべきなのは、
舌苔
舌の上に形成される細菌・剥離上皮などの堆積物。
歯周病
歯周ポケット内で嫌気性菌が増え、VSCが作られる。
口腔乾燥
唾液が減り、自浄作用が低下する。
歯間・むし歯・義歯など
細菌や有機物が停滞する場所。
です。
口臭の多数派が口腔内由来なら、
最初に歯科的な原因を確認する
のは合理的です。
では、どんなとき胃や全身も考える?
口腔内を評価しても、
明らかな原因が見つからない。
さらに、
- 強い胸焼け
- 酸逆流
- 消化器症状
- 鼻・副鼻腔症状
- 呼吸器症状
- 全身症状
などがある場合には、
他の原因を検討する意味があります。
ここで初めて、
歯科以外の診療科も候補になります。
「胃が悪いから臭う」は、完全なデマではない
ここまで整理すると、
この俗説は面白い位置にあります。
完全なデマではありません。
消化器疾患やH. pyloriと口臭の関連を報告した研究はあります。
しかし、
一般的な口臭について、
第一原因を胃と考えるのは研究全体から見ると不自然
です。
圧倒的多数は、
まず口腔内です。
結論:口臭がしたら、胃より先に「口」を見る
口臭がする。
そのとき、
胃を疑う前に、
鏡で舌を見る。
歯ぐきから血が出ていないか見る。
歯周病がないか確認する。
口が乾いていないか考える。
科学的には、
こちらの順番の方が合理的です。
口臭の87%は口の中。
胃が関係するケースはあります。
H. pyloriとの関連研究もあります。
しかし、
「口臭=胃が悪い」
という一行で説明できるほど、
人間の息は単純ではありません。
「口臭を科学する」シリーズ
- シリーズトップ:口臭を科学する|歯を磨いてるから大丈夫と、本気で思ってますか?
- 前の記事:歯を磨いた直後なのに臭う?! 「磨いた=無臭」にならない理由
- 次の記事:舌は磨けば磨くほどいい?! 舌磨きの「やりすぎ」を科学する
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