光に重さはあるのか?――鏡の箱に光を閉じ込めると質量は増えるのか

静止質量ゼロの光が重力とどう関わるかを、エネルギー、運動量、重力源、箱全体の質量という視点から解説する。

公開 2026/9/14 確認 2026/9/14 読了 8分 中級 執筆: 知識図書館 編集部

光には静止質量がない。これは正しい。

では、光には「重さ」もないのだろうか。

答えは単純なYes/Noではない。光子の静止質量は0だが、光はエネルギーと運動量を持つ。そして一般相対論では、重力の源になるのは単なる静止質量だけではなく、エネルギー・運動量・圧力を含む。

つまり、

光は静止質量0でも、重力の世界から外れているわけではない。

光は重力で曲がり、光自身も重力源になり、さらに光を箱に閉じ込めればその箱全体の質量は増える。


光に「重さ」があるとはどういうことか

「質量」と「重さ」は違う

日常語では混同されやすいが、物理では区別する。

  • 質量:物体の慣性や静止エネルギーに関係する量
  • 重さ:重力場の中で受ける力

地球上では概ね

W=mg
で表される。

光子の静止質量は

m₀ = 0
である。

しかし、これだけで「光は重力と無関係」と結論することはできない。


光は運動量を持つ

光子のエネルギーは

E = hν
運動量は
p = E / c
である。

つまり光は、静止質量がなくても物体を押すことができる。

これが光圧である。

鏡に光を当てれば、反射によって光の運動量が変化し、その反作用として鏡に力が働く。

光帆やレーザー推進はこの原理を利用する。


光は重力で曲がる

一般相対論では、質量やエネルギーによって時空が曲がる。

光はその曲がった時空の中を進むため、進路が曲がる。

太陽の近くを通る星の光がわずかに曲がって見える現象は、その代表例である。

ここで重要なのは、

光に静止質量があるから引っ張られるのではない

という点だ。

一般相対論では、重力は単純な引力ではなく、時空の幾何学として記述される。


ブラックホールから光が出られない理由

ブラックホールでも同じである。

事象の地平面より内側では、外へ向かう未来の経路そのものが存在しない。

局所的には光は常に光速で進む。

それでも外へ出られない。

つまり、

光は遅くなって捕まるのではなく、時空の構造に従って進んだ結果、外へ出られなくなる。


光のエネルギーは系全体の質量を増やす

光そのものも重力を作る

一般相対論で重力源になるのは、エネルギー運動量テンソルである。

そこには、

  • エネルギー密度
  • 運動量
  • 圧力

などが含まれる。

光はエネルギーと運動量を持つ。

したがって、

光も時空を曲げる。

ただし、人類が日常的に扱う光エネルギーでは、その重力効果は極めて小さい。


鏡の箱に光を閉じ込める

完全反射する箱を考える。

箱だけの質量を M とする。

そこへエネルギー E の光を閉じ込めると、系全体の静止エネルギーは

Mc² + E
になる。

したがって、箱全体の質量は

M′ = M + E / c²
となる。

つまり、

光を入れた箱は、空の箱より重くなる。


どれくらい増えるのか

1Jの光エネルギーなら、

Δm = 1 / c²
だから、
Δm ≈ 1.1 × 10⁻¹⁷ kg
程度。

非常に小さい。

1MJを閉じ込めても約

10⁻¹¹ kg
程度で、普通の秤ではまず測れない。

しかし原理上は確実に増える。


「じゃあ光にも質量がある」でよい?

ここは慎重に言うべきである。

光子1個の不変質量は0。

一方で、光を含む系全体には、その光のエネルギーに対応した質量がある。

したがって、

  • 「光子には静止質量がある」→誤り
  • 「光のエネルギーは系の質量に寄与する」→正しい

となる。


2本の光だけでも系全体は質量を持てる

同じエネルギーの2本の光子が、正反対の方向へ進んでいるとする。

それぞれ単独の静止質量は0。

しかし全運動量は互いに打ち消し合い、系全体には有限のエネルギーだけが残る。

このため、

2光子系全体には0ではない不変質量を定義できる。

「構成要素が質量0なら、系全体も質量0」とは限らない。


身近なエネルギーにも質量はある

熱い物体は少し重い

この話は光だけではない。

物体を温めると内部エネルギーが増える。

すると

Δm = ΔE / c²
だけ質量も増える。

つまり、

熱い物体は冷たい物体より、ほんのわずかに重い。


充電した電池も少し重い

充電した電池は、放電した状態より内部エネルギーが高い。

したがって、充電後の方がごくわずかに質量が大きい。

差は測定困難なほど小さいが、E=mc²から必ずそうなる。


光だけでブラックホールを作れる?

原理上は考えられる。

大量の光エネルギーを極端に小さな領域へ集中させれば、そのエネルギー密度が時空を強く曲げる。

十分に集中すれば、光だけでブラックホールを作る「クーゲルブリッツ」という思考実験が成立する。

もちろん人類の技術では、必要なエネルギー密度は桁外れに遠い。


光に「重さ」があると言ってよいのか

一般向けには、

「光には質量がない」

だけで終わらせると誤解を生む。

より正確には、

  • 光子の静止質量は0
  • 光はエネルギーを持つ
  • 光は運動量を持つ
  • 光は重力の影響を受ける
  • 光自身も重力源になる
  • 光を閉じ込めると系全体の質量が増える

である。


結論——光は質量0でも、重力の世界に参加している

光子の静止質量は0。

しかし、それは「何の重力効果も持たない」という意味ではない。

光は、

  • 物体を押す
  • 重力で曲がる
  • 重力源になる
  • 系全体の質量を増やす

という性質を持つ。

鏡の箱に光を閉じ込めれば、

Δm = E / c²
だけ箱は重くなる。

つまり、

光そのものに静止質量はない。
しかし光のエネルギーは、確かに質量と重力に結びついている。

E=mc²は、物質だけの式ではない。

エネルギーそのものが「重さの世界」に参加していることを示しているのである。