光に重さはあるのか?――鏡の箱に光を閉じ込めると質量は増えるのか
静止質量ゼロの光が重力とどう関わるかを、エネルギー、運動量、重力源、箱全体の質量という視点から解説する。
光には静止質量がない。これは正しい。
では、光には「重さ」もないのだろうか。
答えは単純なYes/Noではない。光子の静止質量は0だが、光はエネルギーと運動量を持つ。そして一般相対論では、重力の源になるのは単なる静止質量だけではなく、エネルギー・運動量・圧力を含む。
つまり、
光は静止質量0でも、重力の世界から外れているわけではない。
光は重力で曲がり、光自身も重力源になり、さらに光を箱に閉じ込めればその箱全体の質量は増える。
光に「重さ」があるとはどういうことか
「質量」と「重さ」は違う
日常語では混同されやすいが、物理では区別する。
- 質量:物体の慣性や静止エネルギーに関係する量
- 重さ:重力場の中で受ける力
地球上では概ね
光子の静止質量は
しかし、これだけで「光は重力と無関係」と結論することはできない。
光は運動量を持つ
光子のエネルギーは
つまり光は、静止質量がなくても物体を押すことができる。
これが光圧である。
鏡に光を当てれば、反射によって光の運動量が変化し、その反作用として鏡に力が働く。
光帆やレーザー推進はこの原理を利用する。
光は重力で曲がる
一般相対論では、質量やエネルギーによって時空が曲がる。
光はその曲がった時空の中を進むため、進路が曲がる。
太陽の近くを通る星の光がわずかに曲がって見える現象は、その代表例である。
ここで重要なのは、
光に静止質量があるから引っ張られるのではない
という点だ。
一般相対論では、重力は単純な引力ではなく、時空の幾何学として記述される。
ブラックホールから光が出られない理由
ブラックホールでも同じである。
事象の地平面より内側では、外へ向かう未来の経路そのものが存在しない。
局所的には光は常に光速で進む。
それでも外へ出られない。
つまり、
光は遅くなって捕まるのではなく、時空の構造に従って進んだ結果、外へ出られなくなる。
光のエネルギーは系全体の質量を増やす
光そのものも重力を作る
一般相対論で重力源になるのは、エネルギー運動量テンソルである。
そこには、
- エネルギー密度
- 運動量
- 圧力
などが含まれる。
光はエネルギーと運動量を持つ。
したがって、
光も時空を曲げる。
ただし、人類が日常的に扱う光エネルギーでは、その重力効果は極めて小さい。
鏡の箱に光を閉じ込める
完全反射する箱を考える。
箱だけの質量を M とする。
そこへエネルギー E の光を閉じ込めると、系全体の静止エネルギーは
したがって、箱全体の質量は
つまり、
光を入れた箱は、空の箱より重くなる。
どれくらい増えるのか
1Jの光エネルギーなら、
非常に小さい。
1MJを閉じ込めても約
しかし原理上は確実に増える。
「じゃあ光にも質量がある」でよい?
ここは慎重に言うべきである。
光子1個の不変質量は0。
一方で、光を含む系全体には、その光のエネルギーに対応した質量がある。
したがって、
- 「光子には静止質量がある」→誤り
- 「光のエネルギーは系の質量に寄与する」→正しい
となる。
2本の光だけでも系全体は質量を持てる
同じエネルギーの2本の光子が、正反対の方向へ進んでいるとする。
それぞれ単独の静止質量は0。
しかし全運動量は互いに打ち消し合い、系全体には有限のエネルギーだけが残る。
このため、
2光子系全体には0ではない不変質量を定義できる。
「構成要素が質量0なら、系全体も質量0」とは限らない。
身近なエネルギーにも質量はある
熱い物体は少し重い
この話は光だけではない。
物体を温めると内部エネルギーが増える。
すると
つまり、
熱い物体は冷たい物体より、ほんのわずかに重い。
充電した電池も少し重い
充電した電池は、放電した状態より内部エネルギーが高い。
したがって、充電後の方がごくわずかに質量が大きい。
差は測定困難なほど小さいが、E=mc²から必ずそうなる。
光だけでブラックホールを作れる?
原理上は考えられる。
大量の光エネルギーを極端に小さな領域へ集中させれば、そのエネルギー密度が時空を強く曲げる。
十分に集中すれば、光だけでブラックホールを作る「クーゲルブリッツ」という思考実験が成立する。
もちろん人類の技術では、必要なエネルギー密度は桁外れに遠い。
光に「重さ」があると言ってよいのか
一般向けには、
「光には質量がない」
だけで終わらせると誤解を生む。
より正確には、
- 光子の静止質量は0
- 光はエネルギーを持つ
- 光は運動量を持つ
- 光は重力の影響を受ける
- 光自身も重力源になる
- 光を閉じ込めると系全体の質量が増える
である。
結論——光は質量0でも、重力の世界に参加している
光子の静止質量は0。
しかし、それは「何の重力効果も持たない」という意味ではない。
光は、
- 物体を押す
- 重力で曲がる
- 重力源になる
- 系全体の質量を増やす
という性質を持つ。
鏡の箱に光を閉じ込めれば、
つまり、
光そのものに静止質量はない。
しかし光のエネルギーは、確かに質量と重力に結びついている。
E=mc²は、物質だけの式ではない。
エネルギーそのものが「重さの世界」に参加していることを示しているのである。