物質を光に変えることはできるのか?――E=mc²を本当に使うと何が起きる
質量とエネルギーの等価性を手がかりに、物質を電磁放射へ変換する方法と効率、安全性の限界を考える。
「物質をエネルギーに変える。」
SFではよく出てくる表現である。
そして、その根拠としてほぼ必ず登場するのが、
では本当に、
物質をすべて光へ変えることはできるのだろうか。
結論から言えば、
原理上、物質の静止質量を電磁放射などのエネルギーへ変換することは可能である。
ただし、普通の物質を100%きれいに光へ変えるのは非常に難しい。
質量とエネルギーはどう結び付くのか
E=mc²は何を意味するのか
より正確には、
静止質量 m を持つ物体は、それだけで
という意味である。
1kgなら、
1gでも、
つまり、わずかな質量にも巨大なエネルギーが対応している。
燃焼ではほとんど質量は減らない
ガソリンを燃やすとエネルギーが出る。
しかし原子そのものが消えるわけではない。
主に電子結合の状態が変わり、化学エネルギーが熱へ変換される。
質量欠損は非常に小さい。
つまり燃焼は、
E=mc²に対応する静止エネルギーのごく一部しか使っていない。
核分裂では質量差がエネルギーになる
ウラン235などが核分裂すると、生成物の合計質量は反応前よりわずかに小さくなる。
その差が、
- 破片の運動エネルギー
- 中性子
- ガンマ線
- 熱
として現れる。
ここでは確かに「質量がエネルギーへ変わっている」。
ただし変換率は100%ではない。
核融合も同じ
水素原子核が融合してヘリウムになると、生成物の質量は元の水素核の合計より少し小さい。
その質量差がエネルギーになる。
太陽が輝くのもこのためである。
太陽は毎秒、質量を放射へ変えている
太陽の放射出力はおよそ
これをE=mc²で質量換算すると、毎秒数百万トン規模の質量が放射エネルギー相当に変わっている。
それでも太陽全体から見れば、ごくわずかな割合である。
物質を100%光へ変換できるか
100%変換に最も近いのは物質・反物質消滅
普通の物質と反物質が出会うと、互いの量子数を打ち消し、静止質量の大部分をエネルギーへ変換できる。
たとえば電子と陽電子が消滅すると、主にガンマ線などの光子が生成される。
これは、
物質を光へ変える
という意味で非常に直接的な現象である。
電子+陽電子なら光になる
静止している電子と陽電子が消滅すると、エネルギーと運動量保存の関係から、典型的には2本のガンマ線が反対方向へ飛ぶ。
ここでは電子・陽電子の静止質量が、ほぼそのまま光子エネルギーになる。
陽子+反陽子は少し複雑
陽子と反陽子が消滅すると、いきなり全部が光になるとは限らない。
複数の中間子などが作られ、その後の崩壊で、
- ガンマ線
- 電子
- 陽電子
- ニュートリノ
などへ変わる。
つまり、
質量をエネルギーへ変換できても、全部が利用しやすい光になるとは限らない。
光と物質は相互変換できる
光から物質を作ることもできる
E=mc²は逆方向にも働く。
十分なエネルギーを持つ光子が適切な条件で相互作用すると、
これは対生成と呼ばれる。
つまり、
光から物質を作ることも可能
である。
物質と光は相互変換できる
ここが重要である。
物質と光は完全に別世界のものではない。
条件さえ満たせば、
静止質量を含むエネルギーと、光としての放射エネルギーは相互変換できる。
ただし、エネルギー保存だけ守ればよいわけではない。
他の保存則もある
反応では、
- エネルギー
- 運動量
- 電荷
- 角運動量
- その他の量子数
も保存される必要がある。
だから、
「1個の電子が突然1個の光子になって消える」
という反応は起こらない。
電子は電荷を持つが、光子は電荷を持たない。
電荷保存に反するからである。
変換後のエネルギーを可視光にできるか
「質量が消えた」=可視光になる、ではない
静止質量が減った分は、
- 光子
- 粒子の運動エネルギー
- 熱
- ニュートリノ
- その他の場のエネルギー
として現れる。
つまり、
質量がエネルギーになる=必ず目に見える光になる
ではない。
全部を可視光にできる?
物質・反物質消滅で出る光は高エネルギーのガンマ線が中心になる場合がある。
可視光へ変換するには、
- 吸収
- 熱化
- 再放射
などを経て、エネルギーを低い周波数へ落とす必要がある。
100%損失なく、すべてを可視光へそろえるのは難しい。
1kgを完全変換したら?
1kgなら、
1kgの物質と1kgの反物質を完全消滅させるなら合計2kgなので、
極めて巨大なエネルギーである。
反物質を燃料として扱えるか
反物質は究極の燃料なのか
エネルギー密度だけ見れば非常に高い。
しかし大問題がある。
反物質を作るために大量のエネルギーが必要
なのだ。
つまり反物質は、自然に湧いてくるエネルギー源ではない。
むしろ、
極端に高密度なエネルギー貯蔵媒体
に近い。
反物質の保存も難しい
反物質は普通の物質へ触れると消滅する。
そのため、
- 真空
- 電磁トラップ
- 精密制御
で普通の物質から隔離しなければならない。
大量保存は現在の技術では極めて難しい。
ブラックホールは質量を光へ変えるか
ブラックホールでも質量を光へ変えられる?
物質がブラックホールへ落ちると、降着円盤で重力エネルギーが強烈な放射へ変換される。
この変換効率は核融合より高くなり得る。
ただし、物質の静止質量全部が光になるわけではない。
多くはブラックホールの質量として残る。
ホーキング放射なら最終的には?
理論上、ブラックホールがホーキング放射によって完全に蒸発するなら、ブラックホールの質量は最終的に放射へ変換される。
これは究極的には、
質量を放射へ変える過程
とみなせる。
ただし天体ブラックホールでは時間スケールが途方もなく長い。
人間を光へ変えて転送できるか
人間を光に変えて送ればテレポートできる?
SF的には魅力的だが、現実には別問題である。
70kgの人間なら、
これを全部光へ変え、
- 巨大エネルギーを安全に制御
- 人体の全情報を保存
- 光として送信
- 目的地で原子レベルへ再構成
しなければならない。
つまり、
E=mc²が正しいことと、人間転送機が作れることはまったく別である。
E=mc²をどう理解すべきか
質量保存則は間違いだった?
古典化学では「質量保存則」と習う。
しかし現代物理では、より正確には、
質量だけでなく、質量を含めた全エネルギーが保存される
と考える。
核反応で質量が少し減れば、その分だけ別のエネルギーが増える。
「質量が消えた」のではなく、
形を変えた
のである。
E=mc²は「変換装置の公式」ではない
E=mc²を、
「質量を投入すればエネルギーが出るレシピ」
のように扱うのは誤りである。
この式は、
静止質量と静止エネルギーの関係
を示す。
実際に変換するには、
- 核反応
- 物質・反物質消滅
- 粒子反応
など、具体的な物理過程が必要になる。
結論——物質を光に変えることはできる
答えはYesである。
物質・反物質消滅では、静止質量の大部分を光子などの放射エネルギーへ変換できる。
そして逆に、高エネルギー光から粒子・反粒子対を作ることもできる。
つまり、
物質と光は、保存則の範囲内で相互変換可能である。
ただし、
- 普通の物質だけを100%変換する
- すべてを可視光へする
- 安全に大量変換する
- 反物質を安価に作る
ことは現在できない。
E=mc²は「無限エネルギー」の公式ではない。
むしろ、
物質の中にどれほど巨大な静止エネルギーが含まれているかを示す式
なのである。